08/07の日記

18:58
芭屑芭 すべてを捨てたお前と、なにも捨てられなかったオレ
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屑芭屑 【最後の恋】



自由に呼吸も出来ないほどの束縛に、すべてを握られたままで閉じ込められている感覚がひたらすらオレを追い詰めている。
そこから逃げ出せと、訴え続けている本能。
壊れたように「アイシテル」を呟くお前。

だから、オレは、…



「一生離れない」

とお前は言った。

「ならば何故、オレを傷付ける?」

オレは尋ねた。


「俺はアンタを傷付けてなんていない。」


お前は真面目な顔でそう答えを言った。まるで自分には何も非がないのだと言うように、お前は心底、なぜそんなことを聞くのか不思議だという顔でオレの目を見ていた。

だからオレは思う。

あぁ、やはりオレとお前は相容れない存在なのだと――。


「…オレをここから出せ、御柳。茶番はもう終わりだ。」


いつからだ。
いつからオレたちは、こんな関係になった?
誰よりも傍にと望み、互いを必要としていた。
なにを犠牲にしてでも相手を守ると決めた二人だった。
それなのに
いつから互いを守る手は、相手を傷付ける凶器になったのだ。

お前を甘やかしていたオレの唇からは、もうお前を罵り追い詰めるような言葉しか紡げない。
オレに抱きついていたお前の腕は鎖となって、オレをどこにも行けないようにと束縛する、ただの足枷となってしまった。

こんな憎しみ合いの果てに互いを傷付けて誤魔化す関係など、なぜ続けている。はやくしなければ二人供、手遅れになってしまう。
このままでは、そう遠くない未来にいつか…


『俺としあわせになって下さいよ〜』
『屑桐さん、アンタが一番好きです。』
『ねぇ、アンタの傍にずっといられたら‥俺…、』


なぜ、オレはお前を止められないんだ。
なぜお前は、オレを…


「死ねば、いいのか。」


自分でも無意識に、呟いていた。オレが傍にいる限り、お前は目を覚まさないだろう。
お前はずっと自分の狂気に侵されるだろう。

そして一人、逃げ場もなく苦しむのだろう?

もう、解放したい。
オレから。
他でもない、お前の中にある『恐れ』からも。

解放してやりたい


「…はっ、何スかそれ。
…‥アンタ俺に一生泣いて暮らせって言うのかよ…。」

…あぁ、そうだな。
お前は馬鹿だから、きっとそうなってしまうだろうな。いや、それだけならまだ良い方だ。

下手をすると――


「それとも俺に、あと追えっての?」

「…‥。」


それはまさに狂気と呼ぶに相応しい。

相手を無くしては正気でいられないほどの執着。
これを愛と呼ぶのなら、オレたちは互いに『信じられない』ほどの恋に墜ちている。

だがそれは、いつか互いを壊すための道に続いているのだと。
お前とオレは、もう知っている。

…なのに、どうして手を離さない?


「もう止めろ…」 


オレと一緒に戻ろう、芭唐。あの時のようにお前と一緒ならば、何も恐れる必要などない。

オレと帰ろう。
ちゃんとそれぞれの居場所があった、あの時へ。
それでも互いの傍が一番心地いいと感じていた
あの頃へ、オレと帰ろう。


…かえりたい



ぼやけた意識を覚ます
トントン、と控えめに鳴った扉を叩く音。


「…ちっ、誰だよ。
待ってて下さいね無涯さん。すぐ戻ってきますから――‥」


軽くふれた唇が、最後の口付けになると。
この時はまだ気付けなかった。

芭唐の苛立ったような叫び声に、誰かが部屋に入ってくる感覚に無意識にも安堵しているオレがいた。


ああ、オレは帰れるのか、みんなの所に。
そうだ、家族にも監督にも何も言わずに出てきた。きっと心配させてしまっただろう。はやく皆を安心させたい、それに試合のことだってある、バイト先にだって連絡をしなければ…、


いつの間にか近づいていた誰かが、倒れそうになるオレを支える。


「…おい大丈夫か?!」
「ひどく憔悴しているわ、はやく救急車!!」
「こんなにやつれて…可哀相に…‥」


耳元でなにかを喋られるが、オレにはもうなにも聞こえない

だが、


『 …くず‥、さん…っ‥! きり、さ… ‥!屑桐さん…ッ!!』



薄れていた意識のなかで、はっきりと聞こえた声。目に焼き付いた光景。何人もの人間に取り押さえられながら、必死で俺をよぶお前の姿。

ああ、そんな、どうしてだ。
こんなこと望んでいたわけじゃない、オレはただ…


あの時のように…
共に笑いあえていた、あの頃に戻りたかっただけなのに

遠ざかるお前を引き寄せられない。
あっという間に距離が離れていき、オレの視界からお前が消える。


愚かなオレはやっと悟った。安堵などすべきではなかったのだ、オレは。どうして気付かなかった、これでオレはお前という存在を失ってしまった。
永遠にオレの願いは叶わなくなったのだ――




― ― ― ― ― ―



あれから五年がたった。
時が変わり、すべてが元にもどって
オレは今、お前のいない人生を生きている。


風の噂に、あれから御柳は国外にでたのだと聞いた。それならば好奇の目には晒されていないだろうと、オレはひそかに安心した。


俺のほうは念願だったプロ野球の選手となり、ひたすらメジャーにあがるべく努力する日々を送っている。それと今年中に、お袋からすすめられて見合いをした女性と結婚して、来年には一児の父親になる。


きっと今のオレは、人生でもっとも幸せな時期を迎えているのだろうな。


…だがな、芭唐。

正直、今でもよく分からんのだ。あの時オレがだした答えは本当に正しかったのだろうか?
モラルもプライドも、お前を失うことより大切なことだったのか?

本当に、オレは今しあわせなのだろうか――?
 
 
 
いくら問いかけても答えは出ない、当然だ。お前はもう此処には居ないのだから。だがそれで良い。
これは罰だ、お前のためになにも捨てられなかった、薄情なオレへの。

おそらくだが、永遠の罰。


せめてもの償いだ、甘んじて受けよう。
きっとあのときのお前の悲しみを思えば、安いものなのだろう?


「本当にあのときお前の手を離してよかったのか」この疑問がある限り、
オレはお前をわすれない―――。



END



芭屑芭むずかしー!
(というより文才がないだけか/涙)


 

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