長月

□†愛妻物語(2)
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ぽつぽつと雨が降る細道をなにやら重い荷物を抱えながら、牛尾家の第四夫人である屑桐無涯は、たった一人で歩いていた。


(チッ!降ってきたか…。雨は苦手だ…。さっさと御門の元に届けなければ…。)


旦那様に届ける大事な荷物を服の袖で包み直して
雨から守り、無涯は御門のいる役所まで走った。

…数分後、やっとの事で着いた場所。


頑丈そうな扉に、屈強そうな男達が門番に立っているこの建物。ここは、この町で一番の役所。牛尾御門はここの副裁判官を勤めている。

元から財力の大きい牛尾家では権力も必要という事で、本職の外交輸入などの他にもこの様な地位の高い仕事も種にしている。

それというのも、才色兼備である牛尾御門の努力の賜物だった。


牛尾家をもっと立派にするという先代との約束の元、御門はその努力を惜しまなかった。


本来の牛尾家の仕事は勿論の事、その他様々な分野において顔を出し、名実ともに、『牛尾家』の名を世間にとどろかせた。

勿論、妾達の為にも御門は頑張って働かなければならない。


牛尾家の奥方である大事な妻達に、肩身の狭い思いはさせられない。牛尾家の妻達は、御門の妻というだけで周りからは何かと羨望や噂の的にされる。


妻達はそれらに恥じない様、常に気を配っている。御門の妻として、無様な姿を晒す事など絶対にしてはならない。それこそ着ている服から、言葉使いまで。何から何まで完璧に振る舞う。

奥方達も、御門を旦那に持っている事を誇りに思うからこそ【牛尾家の妻として】というプライドが出るのだった。


それらの為に牛尾御門は、毎日ひたすらに働いているのだ。

手を抜く事も知らずに、いつでも全力投球な御門。そんな旦那様の身を心底心配しつつ…、無涯は門番に近づいていった。
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