長月
□☆愛妻物語(1)
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「牛尾家」それは、数々の名誉を残す名門。巨大な富を築き、尚且つ地位の高い家柄。女性の誰もが嫁ぎたいと願い、男性ならば是非とも働きたいと志願する。
誰もが憧れる、牛尾家。その三代目当主である牛尾御門は今、朝からとんでもないピンチを迎えていた―――――。
「…‥これって…‥。もしかして、君が?」
「オレの愛妻料理Vvってやつですよぉ♪」
「…‥そ、そう…。」
今日も朝から、仕事に追われている御門の前に惜し気もなく出されている、朝食の数々。あきらかに主張のあるそれに顔を引きつらせながら御門は苦笑した。
「いつも忙しそうな御門さんの為に、スタミナのつく料理を作ったんですよ〜♪」
誰もが見とれてしまいそうな笑みを浮かべながら芭唐は食卓を指差した。
テーブルの上には、およそ朝食とは思えない品が大量に揃えられていた。
メインと思われる鍋には何故かスッポンが丸ごと一匹、煮込まれている。なにやら異臭を放っている毒々しい赤色をした飲み物に、サラダのかわりと言わんばかりに山芋が山程盛られた皿…。
そこまで確認した所で、卓上を直視出来なくなってしまった。
「…御柳君、あの、コレ、もしかして…。」
「…夜を考慮しての料理です。御門さん、いつも仕事で疲れてるって言って、自室で寝ちゃうから…。」
目を逸らさずに見つめられて、御門は途方に暮れた。御柳芭唐が牛尾家に迎えられてから、一ヵ月。一度も自分の寝所に顔を出さない御門に痺れを切らし、芭唐は遠回しに欲求を口にした――。
御門からすれば、大変困った事態である。
確かに自分は、芭唐の寝所には行っていない。
仕事で疲れているのも確かだが、根本的な理由は別のところにある。
…実のところ、体が回らないのだ。
御門は週に三回は、無涯と会う約束をしている。
その上、正妻である尊には、家の事やら何やらを相談したりで二日は、取られてしまう。
子津や、明美にだって会わなければならない。
もちろん疲れて一人自室で眠るときもあるので、必然的に芭唐を相手する時間は無くなる。
(…どうしよう…)
答えを出せずに俯き続ける御門。一生懸命に考え悩む御門がなんとなく可哀相になってしまい、芭唐が声を掛けようとした時の事だった。
「オイ、何をしている。早く食わねば遅刻するぞ。」
天の助けが舞い降りた。
(御門にとって☆)
「む、無涯っ!でも、あのっ…朝食が、その」
食卓の上にある料理を見て、「ゔっ」と呻き声を出し、無涯は溜息をつきながら御門に提案した。
「‥…。旦那様、弁当を刃六に渡してある。もう時間もない事だし、朝食は馬車の中で済ませたらどうだ…?」
機転の利いた無涯の提案に頷き、御門はその場を立ち退いた。
きちんと芭唐に「ごめんね」と謝って。
笑顔で見送りながら御門の姿がなくなるのを確認すると、芭唐は目の色を変えて無涯を睨みつける。