短編小説(BL注意)

□† Glass Slippers
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「やっちまった…」


時刻は、午前1時をまわろうかという深夜帯。ある一人の少年が己のしてしまった事を激しく後悔しつつ、貧しいせんべい布団の上でぽつりと呟いた。

少年はどんよりとした面持ちで己の手の平を見つめている。そこには先程の行為によって出来た白い残骸がべっとりとへばりついている。そばにあったちり紙を手にしつつ、少年は自分がこうなってしまった経緯について考えていた。


そう、自分が牛尾御門という人間のことを考えながらしてしまった『自慰』という行為の理由について…‥。
 


Glass Slippers




清々しいとはいえない複雑な朝を迎えながら、早朝のバイトである新聞配達へと出掛ける。朝刊を配りおえて仕事が終わると、日課である筋トレを軽くこなし、家の戸をあけた。

起こそうと思っていた兄弟達はすでに起きていて、おはようと朝から元気に挨拶してくる。あぁ、おはよう。と返して無涯は朝食を作る準備にとりかかった。


朝食をとりつつ無涯は兄弟達と軽い談笑をかわす。たとえば一番上の弟がマラソン大会で一番をとると意気込んでいる事とか。妹が今度、保育園で『シンデレラ』という童話の劇を発表する事とか。
その童話の、軽い内容だとか。

朝の短い時間にそんな他愛のない会話を仲良くしつつ。食事をおえてしまえば、ゆっくりのんびりとしているような暇はない。自分の分といっしょに弟達の出掛ける支度をし、時間と闘いながら兄弟を連れて家を出る。そして弟達を保育園に預けてから自分も学校に向かった。



「…あ。おはよう、屑桐くん。」

「…! ‥はよ…。」


教室に入ると先に来ていた牛尾がオレに近寄り、声をかけてきた。どきり、とオレの心臓が跳ねあがったように鼓動をうつ。牛尾の顔を見ると数時間前にしてしまった事がイヤでも浮かんできてしまい、うしろめたい感情におそわれる。

オレは短くあいさつを済ませるとヤツから逃げるかのようにして、そそくさと自席につく。

…やはり、ヤツの顔がまともに見れない。


「…‥?」


無涯の態度がよそよそしい事に気付いた牛尾は、不思議そうな顔をしつつ無涯の隣である自分の席にとすわった。

いつもならぶっきら棒ながらにも、もう少し愛想よく相手をしてくれるのに。今日はどうしたんだろうか…?

そう思い、どうかしたのかい?と無涯に尋ねてみるが当の本人は「なんでもない」とそっけなく返してくるだけだ。しかし、いくら相手が否定しようとも自分が感じた違和感は決して気のせいではないはずなので、訳を聞こうと更に問おうとしたが。

タイミングわるく授業開始のチャイムが鳴り、入り口のドアが開いて教師が教室へと入ってきた。そのまま授業がはじまってしまったので、牛尾は仕方なく無涯への問い掛けを一時中断した。
 
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