短編小説(BL注意)

□☆ 奥様シリーズ。
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―奥様は魔女☆―


1・【屑桐家の朝】





トン、トン、トン…


リズム良くネギを刻む、
包丁の音。

先程から漂う、みそ汁の
いい匂い。

――そしてフリル付きの
可憐なエプロンを着た、
新妻の後ろ姿…。




「……‥御門。」


「あ‥おはよう、無涯!
 待ってて。朝御飯、
 もうすぐ出来るから」
    


振り向いた時の笑顔。
朝食の準備をするその、
やわらかな物腰‥。


た、たまらん…っ!!!




「み、御門ぉおっ…!」



…がばぁっ!!



「‥わっ!?ダメだよ、
 無涯。あ‥朝からそんな …ッ!」


「御門ぉ゙お〜ッ!」


「…‥ち、ちょっとッ!
 ダメだ、って言ってるの が‥っ!聞こえないの、 かいっ…!?」




パコーーンッ!!




朝からバカップルぶりを
発揮している、
この 新婚夫婦…。


奥様の名前は、御門。

旦那様の名前は、無涯。



世間から見てもちょっと
変わった二人は、
ちょっと変わった出会い方をして、
何故か普通の結婚をしました。

ただ一つ、普通と違ったのは‥奥様の御門は、
なんと『魔女』だったのです…☆




+ + + + +




「・・・・。」


「無涯…なにむくれてる
 のさ?」


「…‥べつに。」


「…言っておくけど、
 その頭のコブは僕のせい じゃないよ?」


「・・・・・。」



先程、御門にフライパンで叩かれた頭が痛い。
確かに、朝っぱらから欲情したオレも悪いが‥。
これでも一応、新婚だぞ…?

自分の妻のエプロン姿に
興奮して、何が悪い?


第一だな、仮にも夫に向かってフライパンはないだろう、フライパンは…‥!




「…べつに、むくれて
 などいない。」



これは嘘だ。…本当はちょっとだけ、むくれている。



「うそ!じゃあ、なんで
 そんなヤクザみたいな
 恐い顔してるのさ…?」



カチン!



‥や、ヤクザだと…!?
言っておくが、オレは元
から、こういう顔だぞ!

…‥悪かったな!



むりやり味噌汁を掻っ込んで、席を立つ。



「…‥ご馳走様。」



流石のオレも今の言葉には、カチンときたぞ。

朝から、自分の夫をフライパンで殴るわ「ヤクザ」
呼ばわりするわ…。
まったく、なんて妻だ…!

オレは苛々としながら、
鞄をもって玄関に向かった。
(こんな時は、さっさと
会社に行くのに限る。)



「〜‥もうッ!やっぱり、 怒っているんじゃないか …。」


「くどいぞ!怒ってなど
 おらん!…もう、行く! 」


オレは靴を履き、玄関の扉をあけた。



「…‥仕方ないなぁ。
 じゃあ、こんな時は…
 !」



御門のその言葉に、なんとなく嫌な予感がして後ろを振り返ってみると、
案の定、御門が人差し指を立てて唇にあてていた。



…バタン!



それに気付いたオレは、
慌てて玄関の扉をしめた。



「…おい、御門!言って
 おくが‥魔法は禁止だ
 ぞ!?」



妻の御門は、魔女だ。

結婚する時に魔法は使わない、と約束したが…。

なんだかんだ言っても、
御門はたまに魔法を使っている。(オレには黙って)



正直、御門が魔法を使うと、ろくな事がない。



「…‥わかってるよ。」


「本当だろうな?じゃあ
 その指はなんだ、その
 指は!」


「…?ただ、唇に触った
 だけだろう?」


「…オマエは魔法を使う
 時、無意識に人差し指
 をたてるんだ。」


「へぇ?そうなんだ。
 無涯、よく見てるね。」



…‥当たり前だ。仮にも、オマエの夫なんだぞ?



「…とにかく、分かってる ならいい。じゃあな」


「あ、無涯!」


「!?」



玄関のドアをあけようとすると後ろから再び、御門に呼び止められた。

そして振り向くと同時に、御門のやわらかい唇がオレの唇へと押しあてられる。 

  
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