短編小説(BL注意)

□★桜の誓い
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桜舞うこの地で、もう一度、君と――…。



「…‥久しぶり。」

「…………あぁ。」


卒業式も終わり、高校最後の日。僕は屑桐をある場所まで呼び出した。桜の木が美しく立っているこの場所は、その昔まだ仲違いをしていなかった頃の二人が、よく一緒に過ごした思い出の場所だった。

他愛の無い話をしたり、時には喧嘩をしたり。
笑ったり泣いたりしながら、君と過ごした。

…それこそ、思い出を数え挙げたらキリがない程だ。


変わらない景色に、今にも浮かんできそうなあの頃の情景。懐かしさに想いを馳ながら、横にいる屑桐の顔をチラリと盗み見た。僕と同じで彼もどこか懐かしそうな瞳でこの場所を眺めている。

屑桐に気付かれないように注意をはらいつつ、久方ぶりに会った彼をまじまじと見つめてみる。昔と変わらない強い眼差しと、幾分か変わってしまっていた体格や髪の長さ。
いや、多分それだけじゃないだろう。…三年間も離れていたんだ。
きっと、僕が知らないだけで他にも変わったところはあるんだろう。


僕は、離れていた時間の長さを実感しつつ、自分の知らない彼にどこか言い様のない寂しさを感じていた。…変わったのは、自分だって同じなのだというのに…。

そして、ふと気付く。彼の制服のボタンが、全部取られて無くなってしまっている事に。…‥ご丁寧に、袖の部分のボタンまで取られてしまっている。


なんとなく、彼がボタンを他の人間にあげる姿を想像してしまい、複雑な気持ちになる。…‥やはり、憶えていないのだろうか。あんな昔の約束。むしろ忘れられても当然なのだが。

でも、でも―――…。



「…‥昔、ここで交わした約束…。君は覚えているかい…‥?」


聞いた途端、驚いた様に僕を映した紅い瞳。緊張しながら口にした僕の言葉に、屑桐の顔が歪むのが分かった。

…‥あぁ。やはり今更こんな事を彼に言い出すのは、間違っているだろうか…?でも僕は今度こそ君に伝えておきたいんだ、僕の本当の想いを――‥。


あれは、中学三年の春。先輩の卒業式を見送った後の帰り道で君と話した…
君と二人でこの桜を見れた『最後の時』だった―――。





「先輩達も卒業しちゃって、僕らもいよいよ三年生だね。受験もあるけど、なにより部活で主将になった事だし…‥。これからは今まで以上に頑張らなきゃね!」

「…‥勝手にしろ。それよりも、何故オレが副将にされてるんだ?オマエが顧問の奴に勝手にオレの名を挙げるから、本当になっちまっただろうが!!」


「嫌なのかい…?副将と言っても形だけで、実質的な仕事は全部僕がやるし…君にはバイトもあるしね。出来る限り迷惑は掛けないように、最善の努力をするよ。」

「迷惑とか以前に、オレには似合わないだろうが。…他の奴らもきっと、納得してねーぞ…‥。」


「…そんな事ないよ。君が本当は優しくて面倒見の良い人だって事ぐらい、皆しってる。はっきり言って、嫌われてると思ってるのは無涯だけだよ。」


「なっ………!」


「それに…‥僕が、君に副将でいて欲しいんだ。君が側に居てくれるだけで、…‥凄く心強いからね。」


「…‥オマエ、絶対わざと狙って言ってるだろ…。バレバレだぞ。」


「…ふふっ、何の事かな……‥?」


「…‥そんな言葉で、オレは騙されたりせんぞ。それにその上目遣いはやめろ。…したくなる。」


「えっ!そ、れって…、まさか…‥?!…無涯のえっち。」

「…‥うるさい。今のはオマエのせいだろ。安心しろ、こんないつ人に見られるか分からないような所で、襲ったりはしない。」
 
 
 
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