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□ミスチーフ・ナイト
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【ミスチーフ・ナイト】
パクパクと、一心に御菓子を貪る様に、笑み零れる。
椅子の横に、破れかけた魔女の帽子。
壁に立て掛けた箒。
今年のハロウィンでも、彼は偉大なる戦果を上げたようだ。
チョコにキャンディーにタルトにケーキ、パイにクッキーにクレープ、スナック、それからシュークリームとプリン…ありとあらゆるパンプキン・テイストの御菓子を、バケツ程もあるジャックの入れ物に何杯分も積み上げて。
相も変わらぬ壮絶な食事風景。
けれど、それがハロウィンの御菓子だというだけで、微笑ましく思えてしまうのは、惚れた欲目だろうか?
そんなことを思いながら、ついぼんやりと眺めていると、バケツサイズの容器にギッチリと詰められたプリンをもくもくと貪っていた彼が、不意に顔を上げる。
「あ…ミランダさんも、食べませんか?」
一人でばくばくと食べてたことに気付いて、気まずくなったのか?彼にしては、非常に珍しいことだ…
と、ミランダは思うのだが、周りに言わせてみれば、知らぬは本人ばかりなり…だ。
某・生真面目な監査官のパイの件でも、『アレン君が食べ物を他人に譲るなんて、何があったの!?』だの、『これはブックマン候補生として、何としても記録しておくさ!』だの、『天変地異の前触れだな』だのと、歳若いエクソシスト達が騒いでいたというのに、彼女だけは気付いていない。
彼がこと食べ物に関しては、紳士的な態度をかなぐり捨てることを、未だ知らずに居るのだ。
ただ純粋に、目の前の彼が、何時如何なる時も紳士であり、潔癖なる幼子なのだと盲信している。
尤も、それは彼にとっては、非常に都合の良い誤解でもあるのだろうが。
だからこそ、彼女は言ったのだ。
「いいえ、それはアレン君の御菓子でしょう?でも…」
「…何ですか?」
口の周りに食べ滓を着けたまま、きょとんと見上げる彼を、意地汚いとは露とも思わず。
ただ可愛いという印象だけを抱いたまま、彼女は続けた。
「御菓子を沢山食べて、丸々と太った子供は、魔女に食べられちゃうのよ?」
気を付けてね?と微笑んで、彼の口許に着いていたプリンの残骸を指で掬い、口に運ぶ。
大人が小さな子供を脅かす時の、常套句。
けれど、彼女の誤算が存分に現れた言葉。
事実、アレンはこれっぽっちも怯えてなどいなかった。
次はいつ見られるとも判らぬ、彼女の妖艶な仕草に、すっかりと心奪われていた。
普段の清楚で幼いミランダさんも可憐だけど、これはこれでそそるなぁ。
もしかしたら御菓子以上に、思わぬ収穫だなぁ。
なんてことを悠長に考えていたのだ。
…だから、
「そうですか?」
テーブルを回り込んで、彼が自分の目の前に来た時も、ミランダは危機感など覚えなかった。
よっと両の腕でミランダを囲うように、背凭れに両手をついて。
「僕は、食いしん坊なんですよ?」
「え、ええ…知ってるわ?」
躊躇いつつも頷いたミランダに、アレンは人の悪い笑みを浮かべて。
「だから、御菓子だけじゃ足りなくて、魔女まで食べちゃうかも知れません。」
重なる唇。
咄嗟に身を離そうとしたミランダは、いつの間にか脚の間に割り込んだアレンの膝が、スカートを椅子に縫い留めていることに気付き、頬を染め上げる。
「Trick or Trick☆」
耳に息がかかる距離での問いには、選択肢など無くて。
捕らわれの魔女が、どのようにして食べられてしまったのかは、悪戯な坊やだけが知っている。
Fin.
ほにゃあああ!なんて素敵なアレミラなんでしょう!どのように食べられてしまったのか、非常に気になります。アレン、この野郎!
アレンの食べてる量は本当凄まじいですね。バケツプリンもきっと、でかいごみ箱サイズなんでしょうね。
甘ーいアレミラ、ごちそうさまでした!