Present

□結局誰もが、彼女に弱い
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ばさり、とそれを羽織る。

チャックを首元までがっちりと閉めて。

襟の中に入った髪を払うように出して、後頭部の辺りで一つに纏めた。

「よし!先ずはランニング3キロ!」

拳をぎゅっと握り締めて、ミランダはジャージ姿で部屋を出た。





エクソシストになったミランダは、イノセンスとの同調率を上げる訓練の際、とても痛い通告をされた。

『体力が圧倒的に足りないね〜』

イノセンスを使う時、覚悟などの精神面も大切だか、やはり最後にものを言うのは体力である。

つい最近まで一般人で、尚且つ力仕事なんてやったことのないミランダにとってみれば、体力が無いのは仕方のない事なのだが。

しかし、これからは戦場に立つ身。仕方ないでは済まされない。

『ある程度同調率は上がったし、次は体力作りしよう』

室長の命令で、今日からミランダは体力アップの為のトレーニングに励むのであった。


「先ずはランニング3キロ〜…って、どうしたら外に出れるのかしら?」

廊下の片隅で、ミランダはがくりと崩れ落ちる。
世界規模の迷子になった事のあるミランダは、先程から同じ場所をぐるぐる回り、一向に外に出れる気配がなかった。

「どうしましょう…」

途方に暮れていると、足音が聞こえてきた。
天の助け、とばかりに振り向けば、見知った顔があった。


「あっれ、ミランダじゃん。ジャージかわい!」
「ら、ラビくん!よかった!」

たたた、と走り寄り、腕を掴む。
ミランダとしては道案内してくれる人間を確保したつもりなのだが。
困った表情で尚且つ瞳を潤ませたミランダにしがみつかれたラビとしては、特別な意味合いがあると勘違いしてしまうのは当然の事であった。

ぎゅ、と力が込められた手に手を重ねて、顔を近付ける。

「ん?ミランダ、どうしたんさ?」
「え、あの、ちょ、近い」

ずずい、と近付いてくるラビを慌てて押し退けようとした時だった。


「そこの案内役ー!何ミランダさんに近付いてんですか!!」


叫んだ人物は、ラビに豪快な飛び蹴りを喰らわして、空中で一回転するとミランダの前に着地した。
そして恭しくお辞儀をする。ゆっくり上げられた頭の色からその人物が誰なのか分かった。

「アレンくん!」
「こんにちは、ミランダさん。この案内役に何もされてませんか?」
「案内役…?」

案内役と言われた人物・ラビを指差して微笑むアレン。ミランダが首を傾げると、蹴り飛ばされて気を失っていたラビが、がばりと起き上がった。

「それってもしかして俺、アレンが迷子にならない為の案内役さ!?」
「そうですよ」
「ヒデェ!」

しれっと言い放つアレンと憤慨するラビを見比べてミランダはラビの怪我の具合を心配しながらもクスクスと笑った。
二人はきょとんと首を傾げてからミランダに向き直る。

「ミランダさん、ジャージ着てるって事はこれからトレーニングですか?」
「そうなの。体力つけたくて」
「何するんさ?」
「3キロばかりランニング……したいんだけど」

意気揚々と答えていたミランダだが、がくりと頭と肩を下げる。それを不思議に思ったアレン達が尋ねると、ミランダは恐る恐る顔を上げた。

「わ、笑わないでね。…迷って外に出れないの」
「「………」」

唖然とする二人。のしかかる沈黙に耐え切れず、その場からダッシュで逃亡しようかと考えていたら、ラビがミランダの手を掴んだ。

「じゃ、俺が外まで案内するさ」
「え?」
「僕も行きます。ラビと二人きりじゃミランダさんが危ないですから」

アレンの言葉にラビは「えー」と顔を顰めた。ラビの手をミランダから叩き落とすと、アレンはにこりと笑う。

「さ、行きましょうミランダさん」
「え、ええ」

紳士然として手を差し延べるアレン。躊躇いながらもその手を取り、二人は歩き出した。
その背を慌ててラビが追い掛ける。

「ちょ、待つさー!二人だけじゃ余計迷子になるさー!」

その指摘に、アレンは心の中で舌打ちした。悔しいが事実だったから。
 
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