禁断長編小説
□In The Room Of……T章
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『………それでは息をゆっくりはいてください。何が見えますか?』
『暗くて冷たい海……海水は澱んで渦潮を作っている……。俺を飲み込もうとして…………後は何も分からない………。』
『…はい、いいですよ。目を開けてください。』
カウンセラーが何か紙に書きとめる。無菌性を敷きつめたような、潔癖なまでの白衣の白さが訳もなく俺を苛立たせる。
カウンセラーは俺の視線に気づいたのか、手を休め、薄く貼りついたような笑みを浮かべて、
『大丈夫、ただあなたは少し疲れてるだけ。あと現状に不安を抱えているわね?暗い海は不安の象徴なの。』
と言って再びペンを走らせた。
誰にでもできるような診断を誇らしげに言ってみせたカウンセラーに、殺意を伴った諦めを感じた。
誰も俺のことなんか分かるわけない。ため息を深くついた。
『まだカウンセリングは終わってないですよ!ちょっ……ちょっとイトゥクさん!』カウンセラーの声を背中に受けながら、俺はその場を去った。