小説
□実験材料 R18
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「―では国王陛下、失礼致します」
俺は深々と頭を下げながら閲権室を出てきた人物をちらりと見た。
黒い細身の上下の服に身を包み、鼻筋の通った顔には眼鏡がかけられている。
横に長いそのフレームの眼鏡は、何処か近寄り難い厳しそうなオーラを放っていた。
「皇子、挨拶が遅れて申し訳ありません。私は城下町の研究所で研究員をやっております、レザードと申します」
「―あぁ、聞いている。城周辺の実地調査だったか?」
俺の横に立ち、腕を組んだままクロードが答えた。
「はい。暫くは御迷惑をおかけするかもしれませんが…」
「……いい。必要な事ならばな」
胸に手を当てて再度頭を下げようとしたレザードをクロードは制すると、顎で俺を指しながら言った。
「…こいつは、俺の護衛のルカだ。城の衛兵でもあるから、何か不審な事があればこいつに言え」
するとレザードがこちらを向いて、微笑みながら手を差し出す。
「…宜しくお願いしますね、ルカ、様」
差し出された手を握り返そうと手を重ねる。
と、
「あ、はい、宜し……っ、」
「………ん?」
「…え、あ?いや、何でも?」
「?…ではレザード、仕事に請を出すといい」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って軽く会釈をして、レザードは俺達の前から去っていった。
「…」
その様子を俺は拳を握り締めながら見つめる。
「ルカ、行くぞ」
「あ、あぁ…」
クロードの言葉にハッ、と我に返って、俺は答えた。
「…」
レザードと、握手を交した掌が痛い。
お互いの手を掴む所で、明らかにキツく爪を食い込ませてきた。
「…」
あれは、何だったんだろう…
―…
その日はバロン皇子も城へ来ていた。
この間ハイラル国王にみっちり叱られたばかりと噂で聞いてはいたんだけれど…
また少数の側近だけ連れて、この国にやって来ていた。
「…懲りないな」
溜め息混じりにクロードが言う。
と、紅茶に口を付けていたバロン皇子が顔を上げた。
「だって、あの国つまんないんだもん。その点クロードといると、飽きないし〜」
にこにこと微笑む。
「…」
その様子を扉の所で見守っていた俺は素直に気持ちを口にする彼が、可愛いと思った。
…羨ましいと思った。