箱土攻novel

□答える代わりに、彼は軽く微笑んでみせた。形の良い唇が描くのは、なめらかな曲線。
1ページ/1ページ


学者と言う奴はどれもこんな奴なのか。
もう何度目か幾度か、寧ろ今となっては常々に思っているような感想を心中で改めて述べ。
向かえの位置に座り、眈々と本を読み続けている上司を見た。

自分に課せられた物は既に一段落しており。筆を止めた手で煙草を燻らせつつ、何の気無しに向かい側の男を伺う。

本を読み、時折に何事かを呟きながら細い顎に手を添えて考え込む素振り。
その後、手元の手帳に何かを書き頁を捲る。
まるで簡単なカラクリの玩具のように、同じ事をただ繰り返す。
ほんの僅かな表情の変化としては時々、
眉が吊り上がった険しい顔をしたり。思い悩むような難しい顔をする。

それを暫く、紙煙草が一本吸い終わる間は見ていたが、煙草が終わってそれを灰皿で押し消した後、
土方は、まぁココで椅子を揺らそうが、例えば声を掛けたとしても気付かれなさそうなほど相手は集中していそうだが、一応
音を立てずに部屋を出た。





それから、


「大鳥さん」

静かに、不意に、机上に開かれている本の頁に掌を置き遮った。
急に突き出た障害に一瞬目を見開き直ぐ、不満気に満ちた視線が見上げて来るのを受け止める。


「俺の言いたい事、分かるよな?」


「……なに─…」


何かを言おうと口が開いたのに重ねるよう土方は言葉の代わりに、
口許に曲線を柔く浮かべた


「…君は、まったく…」

小さく溜め息を吐いて眼を伏せる。



「俺ァアンタの部下だし」

「……気が利くと言うよりも、君は策士だ」

「褒め言葉か?」

ちゃんと切りの良い所を見計らって来るとか、
その顔に刻む笑みに何も言い返す事が今まで出来たためしがないとか、
全て見透かした上で部下だとか言い張って、
皮肉も通じないとか、

自棄になって大鳥は側に置かれたカップに口を付けた

「っづ!?…苦ッ、」

「そうか?礼も苦情も中島に言ってくれ。起きてたから煎れてもらった」

「………。君が煎れたんじゃないのか。だから君のはお茶なのか…」

嫌がらせのように…いや、実際、嫌がらせなのかもしれないくらい苦い喉ごしに眉を深く寄せ一息付けば、
体が忘れてしまっていた疲労を漸く意識的に認識する



「飲んだら寝るだろ?」


「それ睡眠の意味かな?」


「俺は、どっちでも構わねぇけど?」



答える代わりに、大鳥は軽く微笑んで見せ。
なめらかな曲線を描く口許で、それをゆっくり飲み干した。





-------------

title≫確かに恋だった



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ