箱土攻novel

□Ti Amo
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「次はいつ…?」

たったいま熱かったはずがもう冷えてしまったベット。
その上に寝転ぶ私に構うことなく土方さんは事を終えるとすぐに着替えだす。
私に背を向けて、筋肉がほどよくついた体をどんどん軍服で隠していく。
土方さんはなんの躊躇いもなく帰る支度をしているのに、私はそれを見つつもう次会うことを考えている。
それだけ離れるのが嫌なのに、この人は、無言で振り返りすらしない。
この悲しみも恋しさ故だと思うと惨めに思う。
いつもこの静けさのまま、土方さんは上着を羽織ると「じゃあな」と一言、出て行ってしまうのだ。
私の質問を、いつもどんな顔をしながら訊いているんだろう。
そう思いながら土方さんの後ろ姿を見つめていると、
めずらしく土方さんは出て行く前に振り返った。

え…。いつもと違う動作に違和感を感じる。
とくりと、心臓が違う感じで鳴ったのは期待と不安がいり混じっての事だ。
土方さんはじっと私を見た。とく、とく。不安が強い

「なあ、」

土方さんが口を開く。

「はい…」

いつもと違う。
私はなんだか、彼が言おうとしていることを聞きたくないと思った。
何を言うのかはわからないけれど、嫌なモノを直感的に感じた。
土方さんは少し黙り、でもじっと緊張を隠せない私を見ていた。
暫くしてから、また、口を開いた。


「俺はもうお前を抱かない。ここにも来ない」

ゆっくりと言った。
とく、とく。心臓の音は変わらない。
土方さんの次の言葉を待ったが、それだけ言うとただ私を見るだけだった。
どうやら私が話す番のようだが、しかし何を言えばいいのか全くわからない。
とく、とく。自分の煩いくらいの心臓の音だけが耳に響いてくる。
私は今何を感じているんだろう。
ただ土方さんの目に映る私は、きっと惨めなんだろうと、そんなことを考えていた。


「そう、ですか」

引き止める気にはならない私は、呟くように言った。
ここで涙でも流せば考え直してくれるかな。情けない話だが、未練がましい。
同情されてまでも、ただ繋がりを持っていたい。
しかしそうしても土方さんはきっと答を変えようとはしないはずだし、困らせるだけだろう。
私は、頭じゃ全然理解してないし気持ち的にもまったく納得いかないんだけど、
「わかりました」と口だけは言った。

土方さんは、私が了承した事がわかるとまた背を向けた。
扉が開くと、廊下の明かりが私がいる部屋に差し込んだ。
ああ。この後ろ姿を見る事がもうなければ、この光景を見て悲しむこともない。
じゃあなと言われ、そうしたらもう、二度とこうして会うことはなくなる。
とく、とく。心臓がおかしい。ああ。行かないで。



「おやすみ」

ぱたん、と扉は閉じられた

なんでその言葉を、もっと早く言ってくれなかったんだろう。
できれば事を終えた後すぐ帰ったりしないで、隣でそう言って欲しかったのに。
じゃあなって言葉を、いま言えばいいのに。
土方さんの考えてることも、気持ちも、まったく分からない。
分からないままだった。
暗い天井がぼやける。

ただ、声に出さないまま
「愛しています」と呟いた








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某チョコレートのCMソングでもあったこの曲が大好きだったりします。




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