土×榎novelA

□笑って許して
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「ホント飽きねぇな、あの人見てると」

「うんうん」

背中を壁に預け腹を抱えて笑う土方、腕を組み真顔で頷く榎本だ。
この2人にとって大鳥ほどからかい甲斐のある相手は居ない。
目付役ともなる松平や島田を対象にすると小言を聞かされるか相手にされないかで、こうも楽しい反応は期待出来ない。
大鳥にとっては腹の立つ事請け負いだが、そこは愛情の裏返し。

顔を見合わせ、また大鳥の顔を思い出しては噴き出し一頻り2人で笑った後、
土方は大鳥に渡された書類を眺め、それを榎本も土方の前から覗き込む

「あー…飯屋の前に千代ヶ寄ってくぞ。中島さんに会わねぇと」

「ふーん、」

榎本は拗ねたようツンと口を尖らせた。
中島と言えば、榎本の長崎では先輩であり。それから上司でもあったが、
時に厳しく、時にも厳しく。榎本の立ち振舞いが西洋カブレ過ぎだとか、総裁としての自覚も威厳も足りないとか、榎本を目に掛けている男である。
おそらく、年の功と好意がそうさせているのだろうが、なにぶん中島も榎本も典型的な頑固者だから衝突は免れない。
それはもう口煩い父親代わりとも言うべき存在であり。榎本としては好意も信頼もあるが苦手な分類に含まれる。
土方と一緒に顔を出せば、確実に説教の一つや2つは聞かされるだろう。

躊躇いが思いっきり榎本の顔に出ていて。
中島の出来た本当の息子らはする筈も無いが、まるで親子喧嘩のような場を目撃した事もある土方は苦笑する

「直ぐに済む。外で待ってるか?」

「なんでっ!どーしてあのジジイの所為で私が寒い外に居なきゃならないの?!手土産に脚絆を誂えて年寄扱いでもしてやろうか」

老体には厳しい寒さだろうから。と、頬をふっくら膨らませ渾身の嫌味を吐き捨てる榎本。
土方は耐え兼ねて爆笑した

「前言撤回する。一番見てて面白ェのはアンタだな」

「ソレ、喜んで良いのか分からない口説き文句だね」

「そうか?俺的には誉めたつもりだが」

土方は書類を畳み胸に仕舞うと、あ、と思い立って声を出し。榎本は首を傾げる

「さっき、口吻した時だろ大鳥さんが襲ってきたの」

「ん?それが?」

「どこまで黙ってるかを賭けたが、最終的にアソコでキレたって事は俺の勝ちじゃねぇか?」

「えー。でも、突っ込んだのはその前だったし」

「いや、見ただろあの顔。アレに比べたら非じゃねぇって」

「君、負けを認めたくないから言ってる?」

「何事も、負けンのは俺の意に反するんだよ」

「うわー、超見栄っ張り。流石は常勝将軍さま」

肩をすくめて高い声で榎本が笑う。
土方はフンと一つ鼻を鳴らすと、榎本の頭を二回ポンポンと軽く叩いた

「まぁアンタが自由なのも珍しいし。昼くらい好きなトコ付き合う」

「いいの!?」

「あぁ。奢るがその代わり、酒は無しな」

榎本は喜び土方の手を掴み指を絡めた。
人の気が少ない庁舎は静かで、また二人の周囲だけは雰囲気が変わる

「早く行きたきゃ中島さんの前でイイ子にしろよ」

なにそれ。とケラケラ冗談めいて反発する榎本の瞼に
子供をあやす時のようなお遊びで土方が口付けた。

すると、直ぐ真横の扉が、爆音と共に派手に開いて。それはそれは見事に吹っ飛んだ。

「ぃい加減にせえやぁっ!余所行ってやっとれえぇっ!!」

扉を蹴り飛ばした勢いのまま頭に血が昇った大鳥が、
何処で仕入れたのか巨大なハリセンを構えて襲撃して来た。
土方は過去大阪出張の際、関西人がソレを持つと立派な凶器に成ると見た、気がしたような覚えが何処かにあった。

「ヤベ!追撃かっ」

「ちょっと扉壊さないでくれない!?公共施設なんだからさー!」

総裁として注意を怠らない榎本を土方は咄嗟に小脇に抱え。スタコラ玄関へ撤退

「帰って来るまでに直しといてよ!お土産何がいい?」

後ろ向きに抱えられ連れて行かれる時、榎本が言う


「赤のシャルドネ!午後一に関税所着く筈やー!!」

「了解、留守番宜しくー」

それとツマミは…!とまだハリセンを振り回す大鳥の声は続いていたが、
二人は構わず、声を出して笑い合いながら奉行所を後にしたのだった。





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久遠サマから頂きました土榎です。有り難うございました!そして、かなり遅れたので忘れられてる気が…(汗)申し訳ありません。

たまには(?)ガッツリ馬鹿っプルさを醸してみました。ただしワザとです。ただ鳥さんで遊びたい2人です(笑)
リクエストは土榎と言う事でしたが勝手に鳥さんを被害者にしてしまいました。
相変わらず鳥さんの扱いが可哀想な我家でスミマセン。


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