土×榎novelA

□SERENADE-後編-
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えー…と、遂に、
時は満ちた……ってヤツ?

…ん?いやいやいやいや、違うから!そうじゃ無い。
べっ別に何か期待している訳でも無いし!何かしようって気も無いし!!
だ、だから、彼の意思も分からないのに一人で焦って考えるべきでは無い!


沢さんに扉を閉められて、変に動く事も出来ず。
何故かそこで強張る自分の横には、彼─…


「榎本さん、なにつっ立てンだ?」

「わっ、」

近付かれ、反射的に横へ退いたソコには本棚。
背中が当たった拍子にガタッと揺れて、

「危ね」

「へ…あ!」

棚の上にあった本が落ちて来たけど、それを私の頭上で彼は上手く受け取った。

「ぁあ、ありがと…」

船が動いてたら棚の上に物なんて置かないんだけど、錨を降ろしてから思わず乗せたんだった。

「ごめん、」

「いや、ほら」

差し出された本に、手を伸ばす。

い、意識し過ぎて自分の行動が制御出来ていない…。
ほんの僅かに近付かれただけで逃げるとか、明らかに変な態度が表に出るし。
まだ距離が近くて上手く顔を見る事も儘ならず、手元から視線を上げられない

もう、期待してる云々ではな無くて、
意識したり考えてしまっている自分こそが恥ずかしくなってきたよコレ。

なんて浅はかな、
は、破廉恥な……


……ん?アレ?

差し出された本に手を伸ばして掴んだ筈が、
彼の手が本から離れてくれないんですけど

え?なんで?なにこれ、
コレ蘭語の辞書だけど興味あるの?いや、まさかね
ちょ、なんで離してくれないのかな?この状況は一体なに…?

「…ぁのさ、」


「さっきから、何を期待してンのアンタ」



は…?はぁあああ!?!?


ちょ、顔から火出てないかなコレっ!?
熱い!!異常なくらい熱い!!誰か水っ!!あ、この下に沢山有るじゃん!
沈みたい…!!!


「期待、してンだろ?」

「な、な何を…なんの事?なんの話し?」

「アンタの反応見てんのも面白いンだけどな。一向に何も言って来ねぇし。俺、焦れったいの嫌ェなんだよ」


ききき期待してんじゃなくて、意識はしてたけどっ!
やっぱとっくに見透かされてた!?っつーか、そりゃ猿でも分かりそうなくらい露骨だったかもしれないけども…っ!!


自分が不甲斐なさすぎて、情けなくて、恥ずかしくて、何かもうよく分からない感情で一杯一杯で、
取り敢えず泣きたくなってきた…

「で、どうしてほしい?」

って、なにこの余裕な顔はっ!!この上無く腹立つんだけど。
その余裕綽々な微笑がまた整った顔を際立たせるから余計に悔しい

「ホラ、言えって」

「ッ…」

未だ掴んでいた本が引っ張られて引き寄せられた。
そしてちゃっかり本を触っていない方の彼の腕が自分の腰元に回って来て、

バクバク動く心臓の音が彼にも聞こえてしまいそうなくらいの距離で、
それこそ極上な媚笑が見下ろしてくる…


「き、」

「き?」


「キス……して、っ」


うぅ…言っちゃった言っちゃった言っちゃった!!!
自分完全に流されてるよ!乗まれてるよっ!!ちょ、誰かッ!!!!



腰に回されてる腕にグッと更に引かれ互いの体が密着して。
自分はどうしていいのか分からず、ぎゅっと目を閉じ。本を掴んでいない方の手で彼の上着を握った。
何か掴まないと心許なくて仕方無い。

そして、静かに彼の唇が自分のに重なり。ゆっくり、舌が侵入してくる。

その熱くて痺れるような感覚に誘われて、恐る恐る、自分も舌を伸ばして絡めた


「……っ、ン」

勝手に鼻から空気が抜けて苦し紛れに上着を握る手に力が入り、縋っているよう見えるかも。
舌が擦れ合う度に、まるで背筋が擽られてるみたいに疼き。脚から気力が抜けて縋らないと崩れそう。
それでも、そのうち自ら彼の舌を追うように、夢中で口付けを繰り返し。
何度か鼻先が互いに交差し、漸くそっと離れた時に
二人に繋がった唾液が滴り落ちた



恥ずかしさのあまりに自分は取り敢えずこの場を何とか回避しようと、
彼の顔を見ずに背いて直ぐ扉のノブを掴んだ

「…っあの、やっぱ、飲み物でも取って来るッ」

しかし背後から彼の腕が伸びてきて扉を押さえられ、開くのを阻止された。

「この状況で、どこ行くってンだよ」

「だッ、だって、いまもうキス、しっ…したし。ぃ、いま物凄く体が酒を欲しているから…ちょっ、取りに行かせてほしいんだけど」

上手く舌も回らずやっぱり振り替える事も出来ず背中越しに訴える。

あわあわわあわわわっ!!
何で一時の感情に身を委ねるがままキスって言っちゃったの自分っ!!
もうコレ素面じゃ持たないんですけどっ!アルコール!!アルコールプリーズ!


「酒呑むのは後にしてくれ。それとも、酔い任せじゃねぇと俺に付き合えねぇの?」

「っ、そうじゃなくて…、じゃぁっコーヒーでも煎れて…」

「必要無ぇって」

ワザとか!?って聞きたくなるほど顔が真横に来て、耳元で囁かれた。


「頼むから、逃げるなよ」

確実に耳が赤くなったから咄嗟に手で隠して、振り替える。
ソコには相変わらずの不適な微笑

「ま、焦る事ァねぇよな。取り敢えず座ってゆっくりしようぜ」

ポン、と一つ頭を叩かれた

揶揄われてるのか、気遣われてるのか、よく分からないけど
一旦、落ち着く間はくれるらしい…

上着を脱いで無造作に椅子へ投げ掛け。壁際のベットに乗り上げた彼は、
壁に背を凭れて、長い脚をベットの横幅一杯に伸ばして座り込んで
自分の部屋よろしく我が物顔で手招いていている。
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