土×榎novelA

□SERENADE-前編-
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色々あったけど、どーにかこーにか鷲ノ木に到着したその日。
一先ず着いた事を喜ぼうと船室で沢さんと報告で開陽に乗り合わせた蟠龍の松岡くんも交え。
3人でビールを呑んでた時、とんでもない話しを耳にした。
と言うか、聞かされた…


きっと、その時は、
気付いたら夜中まで疲れた体でビールを次々と空けてしまっていたのが、今思うと、いけなかったかもしれない。

だいぶアルコールで気分良くなって来た頃合いに、
期待の海軍ホープ磐ちゃんがフと言った


「ねぇ釜さん。土方さんと、もう契った?」


ブフッ…!!

「うわっ、何してんの沢さん!」

「っ、ごめッ…ケホッ…」

真横の沢さんが突然ビールで噎せたもんだから咄嗟に避け。何とかビールはかからなかった。
そしてハンカチを差し出す。沢さんは直ぐに汚れた口と目尻に浮かんだ涙を拭い始めた。

で、何だっけ?ホントは自分に対しての質問だった筈

えーと……、私が、
土方くんと─…


「契った…って?」

契り?…契り、って…
アレ、アノの契り…??

磐ちゃんの顔を見直すと、少し日焼けしてる肌と正反対な真っ白い歯を出して、ニヤリ。
そしてズイッと、ツマミと空瓶が散らばるテーブルに身を乗り出して来た


「SEXですよ。S・E・X」


「っ──…」

余りに唐突で言葉を失って。思わず開いた口が塞がらずパクパク動く。

「な、え、…契るって?」

「松岡くん…君は」

「ちと気になったもんだからさぁ」

ケラケラ笑う磐ちゃんと、唖然とする沢さん。
自分はそれどころじゃなく酔いが醒めたかも…ってか、酒が一気に回った?
頭の中で何かがグルグル回ってるような感覚で…軽く目眩が


「あー、因みに、釜さんが土方さんと上手い具合になってんのは、とっくにコッチまで風の頼りが届いてるから」

とか、また一瓶を呑み尽くしながら言われた。
いや、それはまぁ皆に隠してるつもりじゃ無いから、いいとしても…

「何も…、そんな…、別に…そー言う事で、彼と居る訳じゃ無いし─…って言うか同性だよ?!無理でしょ?!」

「はぁ?釜さん、もしかして知らないのか…?」

一体、何を…?
と聞き返すのが怖くて咄嗟に口を結んだ。
無意識に瓶を握り締める手もグッと強張る。
そして言い出しておきながら磐ちゃんは悠長に新しいビールに手を伸ばし。瓶の蓋を歯で開けて一口呑んでから続けた

「その絆ってのを、武士なら契りを交わして確かめるモノらしいゼ」

「ほ、ホントっ…!?」

「ホント、ホント」

「えぇ!?いや…あの」

いやいやいやいや…有り得ないでしょ?!
だって、…ど、何処に??何処で??どーやって…

「釜さん落ち着いて。からかわれてるだけだって」

「へ…?じゃあ嘘なの?」

苦笑する沢さんと磐ちゃんの顔を交互に見る。
すると磐ちゃんが、嘘では無い。と得意気な面持ちになった

「一昔の武家じゃ当たり前だったらしいが。今は公家か坊主の間だけだろうなー。あの陰間屋ってやつ?」

「ぁ、あぁアレ…ね。ふ、ふ〜ん…。」

「ふ〜んって…、陰間屋に行った事なんて無いだろ釜さん」

「名前くらいは知ってる」

それと、俗の衆道が専門だって事だけは…

「沢さん、もしかして行った事あるの?」

思わず少し遠巻きに聞くと、あるわけ無い!と全力で否定された

「松岡くん、止めてくれよ。釜さん変に真面目だから直ぐ本気にするぞ」

…ん?もしかして
いま、変とか言われた?
一人で首を傾げる向かい側で磐ちゃんがバシッと、テーブルを打った

「ほら、相手は何せアノ義と士道を重んじる新選組。その鬼の副長ったァ武士の中の真の武士なんだし」

「や、でも流石に、それとコレは…違くない?」

「分からねぇよ?アレだけの色男、女も、男だって放っとか無ぇさ」

またニヤリ、一段と悪戯な微笑。

「あの人なら、もしかすっと精通してるかもなぁ…。釜さんが知らなくても心配ねぇよ。きっと成るように成る」

散々盛り上がっておきながら、まるで他人事と豪快な声で笑い飛ばされた…。

「心配無いって言われてもさ…。その、やっぱ…少しはそー言うのって、理解しといた方が…いい?」

もちろん、彼にその気が有るのかどうかは知らないし。自分は今こんな話を聞かされて驚くばかりで、
ただ、物凄い事を知ってしまったからには一応、
少しは気にした方がいいのかな…?

親友に助言を求めようと伺うと、その親友は突如
ダンッ!と瓶をテーブルに置いた(叩き付けたようにも見えた)

「もー、頼むから釜さんで遊ばないでくれないかな。松岡くん…?」

この海軍一穏やかな満面の笑顔。
この沢さんの特技が出ると決まって俄に寒気がする。
磐ちゃんの顔からも途端に酒の朱が退いた

「ぁ、遊んでる訳じゃないって沢さん。それに話は士官にも流れててよ…」

「と言う事は、揃って噂してるわけ?」

「まさかっ、みんな心から上司を思ってるんだっ…!だから俺が代表してこーしてアドバイスを…」

「アドバイス?必要かな?内々の話なら未しもコレは陸軍が絡んでいるのだから扱いは是非ともデリケートに頼みたいね。只でさえ、アチラときたら我々とは相見え無い節もどうやら伺えるようだし。此から互いに連携を図る今後の事もよくよく考え、ここで歪みを生じてしまうような軽卒な発言は、僕としては慎むべきかと思うのだけれど…」

「さ、沢さん!待ってっ、ストップッ!!これ以上は磐ちゃんが泣いちゃうよ!もういいってっば!」

馬扱いする訳じゃ無いけど、どうどうと手で宥める。
私の話と言うより、何故か陸軍に対する不満になってたような気がした。
そして磐ちゃんは、とっくに泣いてる


「釜さん」

「な、なに…?」

見慣れた笑みに、負けじと笑みを向けてみた。

「古来の習わしだの何だのって、肝心なのは今だと思わないか?」

「うん…?」

「せっかく遥々来た外交貿易発展途上の町を目前にして釜さんとも有ろう人が、過去の風習に囚われたりするつもりなの?」

「そんな大袈裟な…。」

「何も否定的な意味じゃないよ、自分達だって武士だ。でも、釜さんが考える事はもっと山程有るって言ってるわけだ」

「ハイハイ。それくらい、言われなくても分かってるよ」

「ならいいけど」

念を押すように肩を一つ、叩かれて。
そして、クスリと小さく笑われた

「昔から、一個物事を考え始めたら追究するまで他がまったく手に付かなくなるんだから」

「それは御互い様ね」


外は多少の雪がチラついてたけど凪は穏やかで、
江戸から仙台、この地までの航海に取り敢えずは漸く踏ん切りが着いた達成感にだけ浸って祝盃を上げた。




それでも、どうしても、
やっぱり一度気になったら仕方が無くなるわけだよね
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