土×榎novelA

□誘うサボンの香り
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榎本の酒は陽気なモノだ。
そのうえ、前後左右不覚に陥り他人に迷惑を掛けるよりも気分が良くなる程度が一番旨いとか、
酒の飲み方にも拘りがあるようで、滅多に酔わない。
いや、酔わないと言うか、酔えないのだ。
篦棒に強いので、榎本がそこまでになる間に周りが潰れてしまい、介抱役に回される事が多い。
それと、米から生まれる日本酒を主食とし。他に食べ物を口にしない等、
端から見ても臓器が悲鳴をあげそうな拘りもある。

なので土方は、誤魔化そうとする榎本では無く、大塚から聞き出した通り晩飯も用意し。
火鉢にかけた鉄瓶に2つの徳利を入れておいた

報告などのついでに支度もした島田が退室して間も無く、ノックをして榎本が部屋に顔を出した。
直ぐにテーブルに揃う食事を見て目を丸くさせる

「君、もしかして晩飯まだだったの?」

「いや、これはアンタの。酒は飯の後だ」

晩飯の話しを玄関でしなかったから大塚が土方に漏らした事は直ぐに分かった。
大鳥も荒井も昔から誰もが口を酸っぱくして注意する事だが、榎本は聞き入れたためしがない。
釈然としない顔を一瞬したが、大人しくテーブル前のソファーに土方と隣り合わて座る

「誰も取ったりしねぇから。呑みたきゃ早く食え」

「あーあ、沢庵こんなに山盛り持ってきて」

「それは俺の分もある」

「うん」

さっそく箸を手に食べ始め。沢庵の乗った小皿は端に寄せて土方に全て渡す

「別に、サンドイッチとか軽くでいいのに」

「あの軟弱そうな食い物か。味噌汁でも飲まねぇと暖まらねぇだろうが」

「軟弱って…。酒を呑めば暖まるし。米も同時に摂取出来るんだよ?一石二鳥だよ?」

「体に言わせりゃ二鳥でもなんでもねぇよ。胃でも鍛えたいのか?荒行のつもりか?」

そんな事を言い合いながら、土方は指先で沢庵を口に放り込んだ。
榎本も喋りながらしっかり食べているから土方は大人しく待つ。
まだ微妙に乾いて無い様子の濃い小麦色した榎本の髪が気になって、手を伸ばしかけたが、
それも食事の邪魔しないように思い止まり引っ込めた。
せっかく大人しく言う事を聞いているのだから、余計なちょっかいを出して中断させるのは惜しい。
伸ばし掛けた腕は榎本の頚後ろへ回し。ソファーの背凭れに乗せた

「サンドイッチだったら、食べながら本を読んだり。別な事も出来るんだよ。軟弱どころか画期的でしょ?」

まだ食事に対して言いたい事があるらしい。
器用に箸と喋る口を使い分けている。
余程、酒が欲しいのか食べ進める速度は随分と早い。
側の火鉢に乗せられた鉄瓶は断続的に湯気を昇らせている

「分かった。それが食いたかったのか。今から作らせてやるよ」

「いや、もうコレで充分。それより早く熱燗っ!」

揶揄うように言うと、榎本は土方が予測した通りに頬一杯に早々とご飯を掻き込んだ。
まるでネズミのように膨らむ頬袋が面白く、土方は喉の奥で笑う。
膳の半分以上が少なくなったところで土方は笑ながら、もごもご忙しなく口を動かす榎本の髪を掌でクシャと撫で酒を取りに立つ。
その時、髪が揺れた拍子に嗅ぎ慣れない匂いが漂った

「ん…?」

「なに?」

土方が不思議な顔をすると、喉に物を全て流した榎本も土方を見る。
憮然とした榎本を余所に、土方はもう一度指先で髪を梳いた。
湿り気を帯びるその細い髪は至極軟らかい。
そして匂いは揺れる度に、強くも無いが香ってくる

「匂いする?」

「あぁ…」

ソファーに片膝を乗せた体勢で、真上から梳くい上げた髪に鼻先を埋める土方。
自分では気付く事も無く。
おそらくこうして至近距離で無ければ他人でも分からない程度の微かな残り香。
どこか擽ったくなって榎本は微笑らった。

「石鹸だよ。試作品を試してみたから」

「…あっそ」

まったく素っ気ない返事だが、榎本は気にしない。

「使う油を椿とか菜の花に変えたり。材料を加えればもっと違う匂いになるかもね」

「ふーん」

「因みに試作品は馬の精脂なんだけど。石鹸ってさ、石灰を沸騰させて出てくる灰汁を丁寧に取って……」

土方はもう聞いていない。
聞いていないが、正しく機関釜に火が灯った如く榎本の口は動き出した。
早く酒が呑みたいと強張ったのを途端に忘れたようで、坦々と脂肪酸だ精製水だ濾過だ云々と用語を並べ。
得意気に人指し指一本立て、何かお伽噺でも謳うよう眼を綴じて楽し気に語る。
だから、それはそのままにさせ、土方は指先でただ髪に触れていた

「…まだ改良の余地は沢山あるんだけどね」

「あぁ、良い匂いだ」

一通り流した後まるで脈絡の無い言葉で途切り。
髪を梳いていた掌で頭を抱き込んで、そこへ顔を埋もれさせ匂いをクンと嗅ぐ。

「君、話し聞いてた…?」

「いいや。楽しそうなアンタが、可愛いと思って」

「真面目に話したのにッ…」

反発に動こうとする寸前、瞼にキスを落とした。
そのまま顔を頬に寄せて、髪を掻き上げるよう撫で。
もう片方の腕を背中へ回し閉じ込める。
榎本は胸板を二回ほど叩くが、宥めるようで抵抗では無い。
火鉢の炭が、控えめにパシッと弾けて音を鳴らした。

「熱燗は?」

「…やっぱ可愛くねぇ」

「付き合ってくれるんじゃないの?」

「後でな」

「酒が先って言ったのに」

「飲ませ無いとは言ってねぇだろ」

土方が少し体重を掛けると呆気なくソファーに横たわり。
何度も髪を梳いていると、いい加減むず痒くなったのか身を捩る。
声を出して笑っていたのは途中までで、
榎本が漸く酒を口にしたのは、放置された火鉢の火が小さくなって徳利が人肌の温度になる頃だ





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ディオ様からリク頂いた土×榎です。有り難うございます!ほのぼのでいってみました

総裁に石鹸の香り。ロマンチを感じるのは自分だけですか←←

お付き合い有り難うございました


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