土×榎novelA

□So much for today!
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紙も積んだら山となる。とでも言うのか、俺の机には大量の書類が置かれている。自分の仕事ならまだしも大鳥のアホが原因の書類。
数日後に測量とか視察で暫く箱館を留守にするのだ。そのツケが全て俺に回ってくると言うこの“並”システム。
急なんだよバカ野郎。ああ苛立つ。焼鳥にでもして喰っちまおうか。
減らない紙の山に比例して増える煙草の吸殻の山。と、ため息、ため息。ため息ばっか。
朝から部屋に籠もりっぱなしなわけで、頭がどうにかなりそうだ。
俺なんでこんなことしてるんだっけ。頭割れそう。欝になりそうだ。そんな俺に留目を刺すかのように、

「ねぇ、まだ?まだ終わらないのソレ」

退屈しきった様子で真横の榎本さんは、俺の肩越しに机上の書類を覗き込んだ。

「終りそうもねぇよ」

「それ調練の予定表だよね?明日でも良くない?」

なんとも暢気な様だ。元はと言えばこの人が“行っちゃえば”なんて軽々しく言いやがった所為なんだが。
そういえば、この人とは暫くゆっくり過ごせていない。俺が仕事ばっかな所為で。前2人きりになったのも確か、いや、思い出せないくらい前になる。
まぁ久しぶりに今こうしているのに若干は嬉しさとかもあるが取り敢えずそれは隠していつもの調子で返す

「良くねえから今やってンだろうが。今夜中に仕上げて、明日朝一で大鳥さんに確認して。他にも、」

「ふぅーん」

榎本さんはあっそうと軽く流す。あっそうって、あっそうって言ったな。
俺はこんなに仕事に追われているのにだ。コノヤロウ

「ご飯食べに行こ。ちょっと抜け出すくらいさ、ね」

「あー……」


思わず行くと言ってしまいそうになったが、目には紙の山が映る。
朝からやっているのに山は一向に小さくならない。
サボったりなんかしたら、また追い込まれるわけで。
行きてぇけど。仕事が終わらない。行きてぇけど。
ああああクソ、もう。


「…行けねぇ」

行かない。ではなくて、行けないのだ。
断りたくないのに断らなければいけないとは、辛い。こんな書類のために気持ちを抑えるとは。大人は辛い。
コイツは俺がどんな気持ちで断ったのか知りもしないだろう。
「あっそう、じゃあまた改めて」と軽く放って呆気なく席を立った。
そして部屋を出ていった。

ちょ、はぁ?居なくなるのかよ。今日ばかりは出て行けとは一言も言った覚えは無い。なのにあの野郎は出て行った。
なんで今日に限り気なんか利かせてんだよ。数え切れないほどの洋語が並ぶ頭の辞書に遠慮とか気遣いって言葉は無い奴のクセに。
いや、まさか怒ったのか?いやいや、こちとら仕事をしてんだぞ。怒るとか流石のあの人もそこまで理不尽じゃねぇと思う。たぶん。
あ、腹でも減ってたんだろう。諦めて一人で飯でも食いに行ったんだろう。きっとそうだ。と思う。たぶん。
ああああ。何もかもこの仕事の所為だ。大鳥の野郎の所為だ。チクショウ覚えてろよ。
俺は朝からこんなにも頑張っているのに、なんでコレ減ってくれねぇわけ。
燃やしたい。こんな紙の山燃やしてしまいたい。もう嫌だ。もう全部カヘルの中に突っ込んでやろうかな。
ああ。細かい字を見すぎて目が痛ぇ。机に向かいすぎて首も痛ぇし。座りっぱなしで尻も痛ぇ。肩が重たい。あの人を追っ掛けたい。ため息ばっか出る。

部屋に一人になってから、また吸殻の山が増えた。消えたら点けて消えたら点けて、手に持っていない時が無いと言う程に煙草を持っているからだ。
そして紙の山は少し小さくなった。しかし疲労は溜まる一方だ。もうずっと皺が寄っている眉間を抑える。


「はあ…」


「はい、おつかれ」

俺のため息に誰かが返事をした。一瞬、疲労からくる幻聴なのかと思ったくらいで。後ろを振り向くと、数十分振りの人物が立っていた。
柄にも無く。とくん、とくんと心臓が鳴る。幻聴か。幻覚か。いやまさか。

「榎本さん…?」

「ん」

きょとんとした俺に構わず、榎本さんは歩み寄ってきて、また隣に腰を降ろした

「何しに戻って来た?」

俺は素っ気なく言う。しかし嬉しいとか何とか(間違ってもソレは口に出さないが)、そんなのよりも言いたいことがまさにそれだった。
榎本さんは、俺の目を見ながら目の前に、皿を突き出した。その上には少し大きめな握り飯。

「はい、ごはん」

見りゃ分かる。そして見るからに塩まみれだから食わなくても塩辛いだろう事も分かった。
どう見ても賄い方が握ったようには見えないソレを、俺は呆気に取られながらも受け取った。

「…アンタが握ったのか」

すると榎本さんは頬杖をつきながら笑う。追っ掛けたいとは思っていたけれど、まさか戻って来るとは。
そんでこんな事になるとは

「…すまねぇ」

「うん。早く食べちゃいな。中身は沢庵だよ」

目を猫みたいに細くして笑った。俺の心臓はまたとくん、とくんと鳴った。って、なんだこの乙女な心境。
いやしかしこの不意討ち。あぁヤベェ。ある意味この展開も大人として辛い。
本来なら付け合わせである沢庵が主役を勤めるその握り飯を口に頬張ると、やはり塩辛かった。もう殆んどしょっぱいだけだ。
それでも、辛さに噎せて出そうな咳も文句も一緒に全て喉へ流し込んだ。指に付いた米一粒残らず食べた。

「戻って来たって、相手は出来ねぇからな」

「いいよ、見てるから」

続きをどうぞ、と榎本さんは俺を机に向き直らせた。俺はまだ状況をうまく読み込めないまま筆を取る。
隣では俺を見ている榎本さん。気になるっつーか、手を伸ばしたいわけで今度は仕事が手に付かない。でもやらなければいけない。
紙の山は小さくなったとはいえ山は山なのだ。ここは取り敢えず理性だ。理性。根性だ、根性。


「…………。」

ちらり、とその人を見ると目が合って、にこりと笑顔を向けられる。

ああチクショウ。もう大鳥の野郎なんか知るか。こんなの、いつまで経っても終わりそうもねぇ。


「やっぱ気が散った」

「は?」

日付が変わってからにする。絶対それで何が何でも間に合わせてやろうじゃねぇか。そう見切りを付けて、俺は机上の洋燈を吹き消した







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清香さまからリク頂きました土×榎でした。

副長がいつもながら暴走気味でした。そしてうっかり総裁が鬼副長を落としてしまいました。(笑)←
そして登場すらしてないのに大鳥さん当て馬でごめんなさい(笑)2人を書くと第三者は大鳥さんにしたくなるのは何故でしょうか。


リクを頂戴してから時間が経ってしまい、清香様にはお待たせしてしまいました。すみません!
この様な仕上がりとなりましたが…よろしければお納め下さい。
有り難うございました!





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