土×榎novelA

□ふたりでひとり遊び
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目が覚めたら、朝だった。
周囲のあまりの明るさに慌てて時計を見て、そんな筈がと着替えを探して、
そこで漸く、ココが自分の部屋じゃないのに気付き。
今日が休暇だと思い出した

まったく。焦って損した。
ヤバーイって、朝食はともかく朝礼の時間も過ぎてるし。なんでタロさん起こしてくんねーのとか誰か呼びに来るじゃん普通。というかアレだ、コレ時計壊れたとかなんかそんなんだって、とにかく焦ったけども。なーんだ、ちくしょー。
休みだ。今日は私、夜まで休暇なんだ。総裁定休日ってやつ。
そんでもって港にある彼の休息所でお泊まりしてんだもんね。起きなくてもいいんだった。しょうがない。このままもう一回寝ちゃおうかな。

二度寝する気で潜り込んだベットはぽかぽかで。
敢えて片足を出して外気の冷たさに触れさせてから、さっと布団へ潜り直し。
うわー超極楽。あったか。ぬくぬく。幸せ。
それと部屋に布団に染み付く薄くも濃くもない煙草の残り香が、彼の残り香が、いい具合で鼻を擽る。

今日は私が久々の休みだからって昨夜は彼がさ「まだいけンだろ」とか容赦無くって、って、ヤバイ。思い出しちゃいそう・・・。

それより今日はどうしよう。彼は確か、朝一で台場に行って、見廻りして、早ければ昼前には戻って来るんだっけ。自分は休暇でも彼は非番じゃ無いからデートはお預けなんだけど。夜の会合まで帰らなくていいし。
天気良いから船乗っかりに行こうか。帰りは向こうの居留地とか酒屋に、何か良い物が来てないか見に立ち寄るのもいいかな。
実験。実験もなぁ…。道具一式は庁舎にあるし。この屋敷を汚したら怒られるだろうし。病院は昨日のうちに行ったし。
読み掛けの本も持って来てるし。飲み掛けのワインも手元にあるから。そうだ。
山の梺のここからでも海は見えるから遊びに行くのは今日じゃ無くていいや。
どうせなら今日は一日一杯ぐうたらしてやろう。屋敷にある兵学書一気読みとかしてやろう。一日くらいはベットの上で暮らしてやろう。
それでも取り敢えず、彼にあまりみっともないトコ見せたく無いから、厠行って顔だけ洗って寝室に戻ろうと居間を通り掛かった丁度、今まさに帰って来て上着を脱ぎソファーに投げ掛けた彼が居た。

「いま起きたのか」

「ん、おはよ。お帰り」

「あぁ。はは、アンタ寝癖すげえ」

適当に治しただけの寝癖を手櫛で撫でつけてくる掌が少し冷たく思ったのは寝起きの自分の体温が熱いからかもしれない。
その掌の反対側の手には、紙の束がある。台場の屯所じゃなくてここで仕事するのかな。
時間は朝と昼の中間で早ければ戻って来ると言ってた時刻だから、わざわざ仕事を持ってきたみたい。とか、今日は自分が居るからだと、自分の幸せの為に自惚れておこう。

「メシあるけど、食うか?パンにさせたから」

部屋の真ん中にあるテーブルについた彼はシャツの袖を捲り、さっそく煙草を口に咥えて、執務応戦体勢を整える。

「ありがと。ここで食べていい?」

軍服と言っても上はベストの軽装だけど洋服着て仕事してる人の脇でダラダラ、
寝巻きのまま寛ぐのもどうかと思いつつ、邪魔しないからって約束して聞くと、
彼は書類からチラリこっちを見て「いいぞ」と言ってくれた。そして直ぐに文字へ視線を戻し、

「ついでに、俺にも珈琲」

たぶん鉄くんが作って置いてくれたサンドイッチを掴み、そのまま食べようとしてたところで、
自分にもコーヒーを煎れる気になった。

なんかこう言うのも、いいかもしれない。時間は稀少なモノだから。
決めた。今日は一日土方君の傍に居よう。そんで土方君をずっと見ていよう。
静かに彼が居るテーブルの側のソファーで珈琲を啜りながら、思う存分に彼を眺める事にした。


たとえば、いつもビシって張ってて少し凝ってるらしい肩や、いつも鉄くんとか新選組とか何千もの人が見詰めてる背中、いつも自分がいくら爪立てようがビクともしない腕。とか、
気難しそうに文字を辿ってるばかりで怒ると刃物みたく尖ってめっぽう恐いのに自分を真上から見下ろしてる時は細く緩くもなる瞳。とか。
紫煙と珈琲が混じって苦く渋い唇は、意地悪で冷めてるし。普段は真面目な厳しい声で物騒な事しか言わないけど、でもたまに、ひどく優しくて。
ホントは、身体中を好き勝手に這い回られると蕩けそうなくらい熱くて。耳の奥まで吹き込んでくる言葉も息も甘いのを知ってるし。
そんで縋って掴もうとすればさらさら逃げてく真っ黒な髪。だけど伸びてくる腕や触れてくる手に、いつも嬉しくなって。
おはよとか、お帰りって言って、くしゃくしゃと髪を撫でてくる手の暖かさまで身に染みてるから。
全部全部、ホントは見てるだけじゃもの足りないけど、邪魔しない。って先約しちゃったから大人しく眺めるだけにしておこう。


今あるこの瞬間が全てで、それ以下でもそれ以上でも無いなら、
自分が居る一つの空間に彼が側に居るのだから、他には何もいらない。
お互いにそうは言い切れないのだけど、今だけ。
今だけなら、そう言っても許されるかな。
だって、今、自分は幸せの中にいる。
非日常が日常みたいな世の中で、ほんの小さな幸せ。そう感じるだけで、きっとかなり贅沢なことなんだと思うし。
だから余計に、凄く大切で、大切にしたい。
彼は、自分より何倍も強い人間で、守られるなんて事は嫌かもしれないけど。
守れるなら何も必要ない。それこそ、自分の命も。

なんて口が裂けても人には聞かせられない。特に普段の自分には。
まぁ今日は、総裁定休日だし。そう想ってみるだけ。なァんて

どうしようもなく我が儘で、贅沢で、幸せに貪欲で、仕方無い自分でも、彼は、
ひたすら実直に澄ました顔で仕事してるけど、たまに
見違えたよう微笑いながら頭をくしゃくしゃ撫でてきたり。逃げらんないくらい抱き締めてきたり。いや、そりゃ好きだもん。本気で逃げてはいないけどなんか擽ったくて抵抗しても彼はお構い無しで、項を引寄せられたら、自分は呆気なく落とされて。
その後は散々いろんな所に掌とか唇が触れてくるからソレが熱いのか自分が熱いのか分からないけど物凄い熱に追い詰められて、
2人で獣みたく息荒くして、全身汗だくにして、
意識まで飛びそうになって無我夢中で真上にある身体や自分を掴む腕に爪立てて縋りついて「もうヤダ」って言わされる。
けど、彼は意地悪く笑って「もっと欲しがれ」って、頬擦りしながら顎やら首に吸い付いてきて、押し潰されそうなくらい自分のこと掻き抱いて「まだ」って、まだ足りないだろって言う。
たいがい自分も我が儘で、贅沢で貪欲かもしれないけど、それと同じくらい彼も欲張り。汗ばんだ素肌とか忙しない息とか直接ぶつかってきて、あぁこの人いま本気で自分を欲しがってくれてるんだ。って伝わってくるから、それは凄く心地良くて。つい甘やかして。
全身のどこもかしこもあの煙草と刃物を握る筋張った掌がやたらゆっくり触れてきて、苦く冷めてるようで真逆の唇がやたら低い声で意識に直で吹き込むように名前呼んで、恥ずかしい事いっぱい言って、目元緩めながら真上からじっと見下ろされるのは、困るけど、嬉しくないはずもなくて、
聞かされたり言わされるがまま、好きで、熱くて、堪らないままバカみたいに求めて、おかしくなるって、変になりそうって、そんなハシタナイこと口にしても彼は絶対笑わないし、それどころか「俺も」って。
「俺も、堪らない」って。
いつも欲張りな自分が望む以上の欲を惜し気も無く与えてくれて、許して甘やかして優しくしてくれるから、気が狂わされてどうにかなりそうで。もっと贅沢したくなるけど、たまに時々、「少し我慢しろよ」って熱を削ぐようなこと言って、「気持ちいい」って笑う顔は嬉しそうで意地悪い。

欲張ったつもりが欲張られて。我が儘を言って甘やかされてるつもりが、自分が我が儘を訊いて甘やかしてたり。どっちもどっちで、どうしようもないけど、
きっと、それが心地良くて堪らないのかもしれないなー。なァんていっつも、

「オイ。」

「んへっ?」

急に呼ばれてハッと顔を上げたら、彼がテーブルからこっちを真っ直ぐ見てた。
なんか怒ってるような笑ってるような困ってるような何とも言えない顔をして。

「なんだよ人の事ジロジロ見て。何かついてっか?」

「男前だなーって見とれてるだけだよ。邪魔?」

「いいや。そりゃ無理もねぇから許してやるさ」

とか平然と気取って煙草を燻らせるから、ぷっと笑が溢れた。


「榎本さん、」

あぁ困る。指先一つなんかで呼ばれて、意地悪で厭らしく微笑まれても、自分は簡単に従うほど聞き分けが良くないんだけども、
手は持ってたカップを呆気なく手放して、足は彼が座る椅子の横に行く。
身体を近付けて擦り寄ったら腕を引かれて、膝の上に乗っかった。

「ちょっと休憩」

「さっき始めたのに?」

「アンタが物欲しそうな顔してるからだ」

「そんな顔してないっ」

そりゃいろいろ考えたけど、眺めてるだけでちゃんと我慢してたし。それは心外って言うと、
鼻で一つ笑われ、流し目を寄越された。

「まだ俺が足りてねぇ?」

そう言うこと訊くところも、顔も声もやっぱり意地が悪い。
せっかく自分の意思で我が儘も言わず甘えたりせず我慢してたのに。そうやってされるとつい、自分すらも甘やかしたくなってくる。

「ねぇ」

「ん?」

項を引寄せられて、そこを撫でる唇は苦く冷めてる筈なのに自棄に熱く思うのは自分が熱くなったのか。
真っ黒い髪を掴んでも指の間をすり抜けてくから肩に掴まって、

「今夜の会合、休もうか」

「は?」

視線を合わせてきたところで唇に吸い付いて、

「休んじゃおうよ」

また我が儘を繰り返した。
聞き入れてくれるかな?






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まお様からリクエスト頂きました。有り難うございます!

総裁ベタ惚れ&せっかくの裏リクでしたが怖じ気付いてスミマセン(汗)結果、総裁がひとりでムラムラ。(←言い方)
楽し気な感じと言う事でしたが、これも結果的に総裁がひとりでウキウキしてるだけですね。総裁は副長が近くに居れば取り敢えず(色んな意味でも)テンションが高いです。

長らくお待たせして申し訳ありませんでした(^^;



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