京都土方攻novel
□鬼の攪乱
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ダリぃ……頭痛ぇ
鬼の攪乱と言うやつか、久方ぶりに風邪をひいた。
風邪と言うものはこんなモノだったのか、それすらも忘れていたくらいだ
まず今朝、目を開けた瞬間に目眩がしていて天井が歪んで見えた。
その次には頭を激しく揺さぶられているかの様な感覚
しかし昨夜は接待があり。
付き合いで酒も多少飲んだから、
俺は疲れか二日酔いかと思いフラ付きながらも広間へ向った
「おはよー、歳」
「こッ……!?;」
………ん??;;
何時もの様に挨拶を交わそうと声を発っしたが、喉に激痛と違和感がある
「どうした?」
声が出せない事に驚きながらも、何とかこの事態を近藤さんに知らせたく。
喉に手を当て身振り手振りをすると、不意に額に近藤さんの手が当てられる
「お前何か顔色悪くねぇ?―…」
暫く沈黙した後、確信した近藤さんはアッサリ
「カゼだな、カゼ。流石だな、こんな熱あんのによく立ってられるなお前」
無理しねぇで寝てろ。
と近藤さんが言った所で、俺は漸くカゼだと理解した
それから部屋へ連れ戻され、仕方無くもう一度布団へ潜り込んだ。
しかし、ただ寝ているのも時間の無駄になるからな、俺は枕元に書類を拡げ。
少し動きが鈍い頭ながらに雑務を片付けていたンだが─…
………暑ッ…。
俺はいつの間にか眠ってしまったらしく、暑さを感じ目を覚ます
何刻程寝ていたのが分からないが、外は既に日は沈み。
今朝よりもやけに身体が火照り息苦しく、更に頭が麻痺しているかの様に痛む
これだから病ってやつは嫌いだ………
舌打ちをしたその時、キシキシと廊下が軋む音がして俺はうっすらと目を開けた
「土方さん大丈夫ですか?」
声がすると共に、足先で襖が開かれるのを視界の隅で確認
…厄介なのが来やがった
満面の笑みを浮かべた総司が両手に鍋と椀を持ち。
部屋へ入るや否や、俺の寝ている布団の傍らにそれを置き自分もそこに座った
「正しく鬼の攪乱ですね。隊士達も噂してましたよ」
不覚にも、俺が思っていた同じ事を言い目を細めて笑ってやがる
コイツが隊士と俺の話しをするって、内容は絶対にろくなもんじゃねぇ
「お粥、食べますか?…って喉を痛めて喋れないんでしたっけ。いつも怒鳴ってばかりだからです、自業自得ですよー」
「……………。」
ケラケラと笑う総司を俺はただ眉を寄せて睨む。
腹立つが、つっこむ気力も殴る体力も今の俺には無い
覚えてろよテメェ…
「もぅ、人がせっかく様子を見に来てあげたのに、何ですかその顔はぁ〜〜」
「ッ――………;」
あからさまな総司の上から目線の物腰に、出てけ!と怒鳴りかけた
「斎藤さんからも何か言ってやって下さいよぉ―」
総司は恰も平然とその名を縁側の方へ呼び掛けるが─…は?
…斎藤?
「!」
目を見張らせている最中、開きっ放しだった襖の隙間から伏し目がちに斎藤がス…、と顔を出した
「沖田さん、もう少し静かに出来ないのか」
「だってこんなに静な土方さん珍しいから。何を言っても今日は怒らないですよ」
「そんな問題ではない」
そんな二人のやり取りよりも(総司の敢に触る言葉より)何故ここに斎藤までが増えるのか分からず、
不思議そうにしていると総司がそれに気が付いた
「斎藤さん、昼間からずっと彼処に居たんですよ。気付かなかったんですか土方さん」
と総司は先程、斎藤が顔を出した縁側を指した
縁側に昼間から居た?;
しかし俺は寝ていたから気付くはずもない。
斎藤は俺からは見えない総司の影になるよう隣に正座をして、視線を俯かせながらボソリと呟いた
「御休み中だったので外に居ただけです…それに今日は非番でしたので」
それは正に俺に気を使った斎藤らしい行動だが、
何も非番の日に丸一日中暮れてまであんな所に居る事はねぇだろ
例えば起きていたなら気ダルい体を這いずってでも縁側に行ってやったのだが…
惜しい…いや、悪い事をしたと少し後悔した
「斎藤さんに感謝して下さいよ土方さん」
感謝?
少し屈んで総司が寝ている俺の耳元で小声で話す
「鬼の副長が攪乱したなんて格好のネタ、面白がらない野暮な人は新選組にはいませんよ。でも、野次馬は一人も来なかったでしょ?」
確かに騒がしい屯所が今日はやけに静かで、珍しく総司が来る今まで寝ていられた
野次馬なんて奴は…
「最強の番犬が居たからですよ、そんな命知らずの人も此処には居ないらしいですね」
成る程……
「何を話してるんだ?」
「何でもありません、それじゃ僕は戻りますから」
「私も…」
「いえ、斎藤さんは土方さんの見張り引き続きお願いします」
総司に続いて立ち上がった斎藤の言葉を遮り肩をポンと叩き制止する
「勝手にまた仕事始めると思うし、しっかり寝かし付けといて下さい」
いつもの静で涼しげな無表情に困惑を浮かべる斎藤をそのままに、総司は部屋を出て行った
斎藤はもう一度、布団の傍らに座り直した。
目はずっと伏せられたまま俺の顔を見ないで呟く
「―…副長が許可して下さるなら……」
余りにも小さな呟きでちゃんとは聞き取れなかったが、微かに頬を染めているのに気が付いた
「居ろよ…」
自分でも驚くほど熱で酷く掠れた声だが、そう返してやった
それだけの口を開くのも辛いが、そう一言わなければコイツは自分から俺に求める事はしない奴だ。
何をするにも……
斎藤はそれに無言でコクリと頷く
「何か私に出来る事はありますか…」
「水を頼む」
「只今お持ちします」
俺に一礼してから斎藤は足早に部屋を出て行った
来いと言わなければ来ないし、行けと言えば行く
俺としては必要とされているのか不安になるが、そんな奴だから可愛いってもんだろ
兎に角、此でやっと斎藤が傍に居る口実ができた事に少し喜んでいる自分に、随分と依存している。
と呆れながらも
総司には礼を言う…
心の内で呟き、口が歪む