京都土方攻novel

□夏バテと藍色の浪人
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この日、斎藤は腹の具合が悪かった

「見廻り、代わりましょうか?(誰かさんが煩いので)」

同室の沖田が、普段より数段は血色の悪い斎藤の顔を覗き見て言う。
それでも、よたよたと斎藤は無言のまま身支度を整えた

「ねー、斎藤さん。聞いてます?」

「…静かにしててくれ」

「夏バテか食中りですかね?法眼先生のところ行った方が…」

「構うな、必要無い…」

「斎藤さんってば」

部屋を後にしようと襖に手を掛けた斎藤の肩を、沖田の掌が乗っかった瞬間、
バタリとその体が畳へ崩れた

「アレ?…ウソ、触っただけなのに」

「ッ〜〜〜〜〜〜…!」

斎藤は沖田の足元で踞り。
腰と腹を抱えて無言のまま撃沈したのだった









「斎藤が倒れたァ!?」

ガチャン!と土方が文机を叩き上げ立った拍子に、湯呑みがゴロンと床へ転がった。
沖田はお茶が染みになる前にと手拭いを取り出す

土方はそれを目下に沖田を捲し立てる

「ってか、今日アイツ見廻りだったのか!?非番の筈じゃ─…」

「もしかして、土方さん忘れてました?先日、永倉さんと夜勤交代したじゃないですか」

「あ〜ぁ…そうだったか…?」

すっかり頭から抜けていたらしい土方は髪を掻き乱して座り直した。
特に約束した訳では無いが、逢瀬は非番の前日と決めている両者。
無論、仕事の為だろうが今ではそれが事の“合図”の役割になり。
土方は昨夜、斎藤を部屋へ招いた

…─そんな無茶させたか?アイツも何で、何も言わねぇンだよ…

と、身勝手ながら不貞腐れつつ土方は再び筆を握る

「それで、斎藤は医者に行ったのか。見廻りの代行は誰だ?」


「居ませんよ代行なんて」

背後で聞いた沖田の台詞に、土方の息が一瞬停止した

「さんざん止めたけど、あの斎藤さんが聞くわけ無いでしょ。ちょっと前に出払いましたよ、真っ青な顔色して…」

「テメェ!それを早く言えってっっ!!」

土方は握っていた筆を勢いの余りへし折り。
刀をひっ掴むと部屋の襖をバキィっと蹴り破った

「ちょっと土方さん!」

「あのバカ野郎を連れ戻しに行くンだよっ!」

ドダダダダダダダ…と韋駄天の如く廊下を駆け抜け、土方は瞬く間に見えなくなる

「副長命令なら伝令でも良いのに…。平気で物壊すんだから」

沖田は唇を尖らせ誰かに目撃される前に、口々に物を大切にしろだの、経費削減だの
常日頃から言っている土方が蹴破って行った障子を建て直した
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