京都土方攻novel

□はた迷惑な照れ隠し
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◯月×日。天気は晴れ

今日は沖田さんに夏限定甘味食べ歩きツアー!(沖田さん命名)へ誘われた

「鉄くーん!お待たせしましたぁ、張り切って行きましょー」

甘味食べ歩きに早くもヤル気満々な沖田さんが、集合場所の正門に来たら…

「アレ?副長も行くんですか?」

まだ寝起きかよ…と言うくらい陽の下に似つかわしくない気だるげな副長が隣に

「俺が行ちゃ悪ィかよ」

「いぇ、滅相も無い」

この人まだ本当に寝起きだよ。
いつもより眼が据わってるぞ…

どうせ今日も明け方近くに寝たんだろうけど。
寝不足を伴ってまで副長が甘味処食べ歩きに付き合うと言う理由は勿論、たった一つしかない

「鉄くん。コチラは歩くお財布です!」

「テメェ…」

「あはは、冗談ですよ〜」

確実にその理由である人は知ってか知らずか随分と楽し気だ。
この無邪気な笑顔の理由が、待ち遠しい甘味に対する期待からだと思うと、
哀れっスね。副長…。
とは裂けても口に出さねぇよ

「ちゃんと自分のお給料で払いますって」

「当たり前ェだろうが」

とか言いつつ、結局はいつも知らぬ間に支払い済ませるような人だよな…とは俺も知ってる

無意識にそんな事が出来るような男は、女に苦労しない。
と言っていたのは原田さんだった気がする。まぁ、副長の場合そんな事してなくても困ってないだろうけど

「暑いので、手始めは葛切りですかね?それとも先に心太にします?あ、まずは軽めに餡蜜か水羊羹って言う手も…」

「お前、それを1日で食べ歩くつもりか」

「なにを今更。それぞれの料理を、京で一番評判の店で食べるってのが目的なんですよ」

「聞いてねぇぞオイ」

「言ってませんもん」

あ、沖田さんの一言で副長が漸く寝起きモードから脱出した

「こんな事、付き合ってくれるの鉄くんだけだから遠慮して声を掛けなかったのに、先程とつぜん貴方が出掛けるなら一緒にって言ったんじゃないですか」

あぁ、やっぱりさっきの笑顔は甘味の事しか頭に無いからだ。
今日の沖田さんは副長とか何よりも、食べ歩きの事しか考えていない

近くで見てた近況では、副長と言えば夜は連日の会合で昼はぐっすり。
沖田さんは通常通り昼間に外へ出ているから、上手い具合に擦れ違い。
二人が揃っているのを見たのは俺も久々だ

だから、目的も知らないのに寝不足に苛まれてまで軽々しく出て来ちゃったンですね、副長。
同情します…とはやっぱり言えないから思うだけにしとく

「今日はどれか一つか二つくらいにしとけ。な?」

「ヤですよぉ。また非番までお預けになるし、期間限定の物もあるし、何より一日で全部回るってのが醍醐味なんです!」

「全部だと!?なんでお前は下らねぇ事にばっか、そんな真剣なンだよ!」

「あー、下らないって言いますか?!」

アレ?ちょっと、いつの間にか険悪になってンですけど。
ってか、コレ屯所の前なんですけど

これも久々に見る結構お馴染みの喧嘩なんだけどな。
こうなると決まってトバッチリをくらう時が多々あるんだよなァ…


「じゃあ、もう鉄くんと二人で行って来ます。お土産も、土方さんの分は無しですよ!」

きたきたきたきた…

「は?戯けンな、誰も行かねぇとは言ってねぇ。何処でも付き合えば良いンだろ、分ァったよ。その代わり旨い漬物が出る店な」

「はいはい、まったく素直じゃないですね」

笑ってっけど、あー言えば副長がそー言うのを確信している沖田さん。流石です。
でも、アレが世に言う当て馬ってヤツですよね?出来ればそれは止めて欲しい

つーか、副長も折れるならわざわざ言い争いしなければ良いのに…。
ひょっとして今日一日中こんな調子かよ……

「あの、早く出ませんか?ココ門前なんですけど」

西本願寺通りは壬生と違って人通りあるし。
既にあちこちから犇々と感じる視線は気のせいじゃないよな?

「ならば最初は近場から餡蜜にしましょう」

「賛成ー!」

「先は長いですから早いとこ行きますか」

コレで漸く餡蜜が食える!って、俺よりも真っ先に喜び勇んで沖田さんが駆け出して副長と着いて行くが、
途端にピタリと副長の足が止まった


「オイ、総司。刀はどうした?」

副長、気付くの遅っ…!!
きっと寝起きだったせいだ

いや俺も今気付いて沖田さんをよくみれば、脇差しすら持っちゃいない

「非番だし、構いませんって。腹が脹れると邪魔なんですよね」

邪魔って…幾らなんでも武士が刀を邪魔にしちゃマズイだろ。
真顔で言い切る沖田さんに、副長の眉間の溝が深まった

「今すぐ取って来い。非番だろうが腹が膨れようが関係ねぇよ、武士が丸腰で出歩くなって言ってンだろ」

「何かあったらどうすンですか沖田さん」

今更ながら言う迄も無く、新選組切っての一番隊組長で顔も知られているだろうし

また副長が怒鳴る前に早く…、と俺の心配を余所に沖田さんは持ち前の花も綻ぶような微笑みを浮かべる

「今日は土方さんも鉄くんも居るから、大丈夫ですよ」

ええぇ!?そんな無茶苦茶な…。
いや、きっと此も絶対に計算だ。確実に確信犯だからっ!!

そうと分かっていても、そんな顔して言われると叶わない…よな

俺は勿論、太刀打ち出来る筈も無く。
隣の副長に至っては「仕方無ぇなぁ…」と早々に説得諦めてるし


普段もさっきも常日頃から武士が武士が…って、二言目にはってる上司だろオイ。
刀を邪魔にしてるの認めちゃうか?ってか、鼻の下少し伸びてる気が…

「今日だけだぞ。今後は必ず帯刀だ」

「はい心得ました、土方副長」

ホラ、認めちゃったよ。
そして先を歩いていた沖田さんの猫首を捕まえ「危ねぇから勝手に先行くな」とか、ちゃっかり横に着かせて並んで歩き始めンだよ

…やっぱり此も沖田さんの思惑通り…?

普段の非番で他の人と出掛ける時は勿論、差してるし。
子供と遊んで居るのを見掛ければ、手に持っていなくても近場に必ず置いているのを、実は俺は知ってる
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