京都土方攻novel

□Winter Lost
1ページ/1ページ


昔から、いつもこの季節が来る度に思う。
凍つく水の冷たさに、邪魔くさい限りの雪に、肌を刺す北風に、流行り風邪を運んで来る乾いた空気に。

冬なんてなくなってしまえ、と。




「って言うか、土方さんって基本、春と秋みたいな過ごしやすい時期以外嫌いですよね。暑い〜とか寒い〜って文句ばっかり」

「それの何が悪い」

「わー、すごい開き直り」

暖房の効いた土方の部屋に入って来るなり、どかっと座布団に腰を降ろした沖田が、深いため息と共に襟巻きを外した。
ぞんざいに畳に放られた上羽織りと襟巻きにだらしないと土方は小言を交えつつ、沖田の前に熱々の甘酒が入った湯呑みを置く。
ソレはさしずめ仕事後の褒美と言ったところ。因みに本日の任務は要人警護だ。
沖田の目に途端に喜色が浮かび、飛び付くよう湯呑みに手を延ばした。
柔らかな乳白色が揺れ沖田の喉がこくりと動くと同時に、沖田の肩から知らず入っていたらしい力が抜ける

「今日は風が強かったからな。寒かっただろ?」

「もー最悪ですよ。屋敷の前で待たされた時なんか、吹きさらしだったし」

「そいつは酷だな」

苦情出しといて下さいね。と告げる沖田は、笑っているのに目は若干本気だ。
土方が、まだ赤みを残す冷たい頬を両手で包み込むと、沖田の目がとろりと細められた。
土方の手のぬくもりが沖田をじんわりと温める。
よほど寒かったのだろう。まだひんやりとした頬や服も外の気温の低さを無言で物語っている。
人使いが荒いと上に訴えたとて、それは今更だな…と本気でしみじみしながら、土方は誤魔化すように笑って沖田の頬から手を離した。

障子の外では木枯らしが吹き、ひゅーひゅーと口笛にも似た寒そうな音をさせている。
格子の間から覗く庭で風に翻弄される枯れ葉をなんとはなしに目で追えば、夏とは対称的に色の薄い空が目に入った。薄く延びる雲は真っ白だ。
よく晴れていて、雪は降りそうにない。

「もういっそのこと雪、降んないかな…」

「雪?勘弁してくれ、余計寒いじゃねぇか」

「えーでも楽しいでしょ?土方さんも近藤先生もよく一緒に遊んだじゃないですか」

「いつの話しだ」

「昔ですよ、昔」

幼い頃は、はらはらと空から舞い落ちる白を飽きることなく追いかけていた。
土方と近藤と3人、積もった雪をかけあって、雪合戦をしてみたり。
手がかじかむと近藤が笑ってその大きな手で包み込んでくれたりして。
沖田にとって、冬は凍えるだけの季節ではなかった。
成長した今では、降れば視界が狭まり、積もると出歩くのも不便な面もあり単純に喜べない部分もあるが、
それでも初雪にはやはり心躍るものがある。
天から降る花に、許されるのなら駈け出してみたくなるのだ。
どうせ同じ寒いなら、雪があった方が嬉しい気がする、と答えれば、土方は呆れとも感心ともつかない微妙な形に口元をゆがめた。

「犬みてーな奴だな…」

「そりゃ優秀な幕府の番犬ですから」

「躾はされちゃいねぇけどな」

クツクツと喉を鳴らしながらいつの間にやら至近距離に座っていた土方が、さりげなく腰に回そうとした手を沖田がはたき落とすと、至極残念そうに唇を突き出してみせる。
それだけ見れば随分とふざけて見えるが、油断は禁物だと、沖田は身をもって知っていた。
宣言通り、躾が良く成されていない鋭いばかりな牙は隙を見せれば直ぐに噛みついてくるのだ。

「テメェ、寒い冬だからこそ暖めあうもんだろうが」

「そんなの言い訳にしか聞こえませーん。犬って言うより、土方さんの場合は狼ですよね」

狼だって犬の仲間だろ、としれっと言い切り、抵抗する暇を与えず素早く延ばされた腕に横から抱き込まれて、沖田はその無駄に高い狩りの能力の高さにため息をついた。
そんなところは優秀でなくていいのに。
まぁ確かに、服越しではあるが土方に抱き込まれていると暖かいのは確かだし。
いつ誰が来るとも限らない真昼間の副長室でこれ以上のコトに及ぼうとするなら直ぐさま蹴飛ばすつもりだが、そうでないならまあいいか、と両手で握る湯呑みの半分まで減った甘酒をまた1口飲みこんだ。
それは、沖田を体の中から温めてくれる。
土方は沖田が本当に必要としていることを見抜くのがいつも、誰よりもうまいと、素直に伝えるのは悔しいが沖田も認めている。

「ねぇ、雪降ったら雪合戦しましょうか」

「あ?やらねぇよ」

「じゃあ…かまくらはさすがに無理だろうけど、雪だるまとか作ったりして…。昔みたいに」

「……」

「ね?」

「…お前ぇの咳が治まったら、考えてやる」

渋々というスタンスを崩さない土方だが、それがポーズでもあると沖田は知っている(本気の時もあるが)。きっとなんだかんだで付き合ってくれるだろう。
雪合戦なら負けず嫌い同士激しい戦いになりそうだし、市村とか他の者達も巻き込んでやると楽しい未来予想図に沖田の口が綻ぶ。
だいぶ暖まった沖田の髪を梳き、土方が軽く口づけたことには、沖田は気付かなかった。




冬は確かに過ごしやすいとは言えない。
水は冷たいし風も肌を刺す。流行り風邪だって猛威を振るう。
けれど。

「きっとですよ?」

「へいへい、雪積もったらな」

「やった!雪降るの楽しみですねー」

「…そうだな」

きゅうと抱きしめ返してきた腕から伝わる温もりに、楽しそうな沖田の笑顔に。
案外冬も悪くないかもしれない、と土方が心の隅で思った事は、重ねた唇に隠しておいた。









-------------
リクエスト下さったシノ様へ捧げさせて頂きます!リクエスト有り難うございました
お時間を頂いたのに拙くてスミマセン。そして沖田と土方とあったのに勝手に×表記が必要なモノにしてしまいました(汗)


冒頭の副長の主観は自分の切実な本音です。←





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ