京都土方攻novel

□パパの受難
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トシと総司が好き合っているのを知り、それをすんなり受け入れた自分を見て隊士達は驚いた。
アイツらも応援しているみたいだが、俺が知ったら良い顔をしないと思っていたらしい。

何で?まあ総司を大切にしているのは俺も一緒だが、トシなら総司に辛い思いをさせないだろうさ。心配はしていない。
ああ、でも男同士だからか。んー、昔からそのへんは寛容な武家社会、あんまり偏見ないんだよなぁ。小姓も陰間ってのもいるし。

因みに俺はトシより前から総司と二人で出歩いたりするし、今でも総司は可愛くて仕方無いが、それで普通に甘やかすとトシが如何にも『面白くない』って顔をするから、最近はほどほどにしている。
だって、心配性で嫉妬深くて総司に関してはかなり心が狭いトシに睨まれたら怖いんだよ…。


浪士の取り締まりの拍子にウチの隊士が店を壊したり道路で暴れたりお寺潰したりしちゃって、最近はトシの仕事が忙しい。
いちいちソレを気にして手加減なんてしてられないのだけど、組の印象が悪くなっていくのに拍車を掛けていて、トシの労働にも拍車が掛かっている。
そう分かってはいた。でも心の赴くまま、いつも通りに深雪に会いに行っていたら、今日は玄関前でトシに見付かって殺意ムンムンの目を向けられた。
怖いです。何かいつにも増しておっかないよ。

「どこ行くんだ」

「えーと、あのな、そのぉ…みゅ、」

「非番じゃねぇよな」

「そうですね…」

「あーイライラする、毎日書類ばっか相手してるからイライラする。発散する為に稽古付けた奴らボコボコにしちゃったし、もう報告書とか決済書とか燃やすしかねぇなコレ、まずは目の前のタラシ野郎から燃やしちまうかなぁああ゙!?」

「すいませんでした部屋に戻るんで休んで下さいお願いします」

あ、そー言えば今日は総司が非番の日だったな。屯所に居ないから、またどっかの子供とどっかで遊んでんだろうけど。
だからキレちゃってんだ。おっかないよトシ。

以前は普段通りの業務に加えて自主残業、時には何日も部屋に籠もって事務処理をし、不休で働くトシを皆が心配して諌めた。
でも体を壊すから休めと言っても、本当に体調を崩しても、仕事が片付くまでは絶対に休まなかった俺の右腕。
いつかパッタリ倒れるんじゃないかと本当に心配だったんだが。

だから定期的に(権限で総司の非番に合わせて)休日をちゃんと消化し、
たまにこうして非番をもぎ取るようになったのは喜ばしい事だ。だけど。

「あんたの机に未済分が置いてあるから読んどいてくれ。明日の昼前には帰る」

怒られるのは嫌だし、言われた通り書類に目を通していると、着流しに着替えたトシが渡り廊下を歩いてるのが見えた。
昼前に戻るのは明日は総司の夜勤だからか、

なんだかトシに総司を取られたような、総司にトシを取られたような気がして、
物凄く複雑で、その中に、ほんの小さな嫉妬と寂しさが襲う。

「……」

思い浮かんだのは、今日逢いに行けなくなった女(ひと)の顔。
目蓋を綴じれば裏側に映るまるで天女のような優しげで美しいあの微笑み。

「トシも、諦めずに想い続けていたから総司と両想いになれたんだ、って言ってました。お幸ちゃんにも俺の愛はいつか伝わりますよね?今だって照れてるだけですよね?」

「いいえ、向こうは明らかに迷惑がってますぜ」

「バカ左之、そんなバカ正直に言うなっつーの」

いつの間にか、庭に立ってこちらを見ていた左之助と新八が、追い討ちを掛けてきた。

「目ぇ綴じてブツブツ呟かんで下さいよ。なにいい歳して青春してるンすか」

そう言いながら煙管を吹かす左之助。

「バカ正直に言うなってば左之、そこはそっとしといてやれ。あのさ局長、隊達が見たら幻滅しそうだから青春やるなら一人で部屋でやってて下さい」


…八っつぁん、お前も大概失礼だから。あ、煙管の灰はちゃんと煙草盆に捨ててね。若いやつらが真似するからさ…。


夜になって仕事も片付いたので、ようやく堂々と深雪に会えると休息所に向かっていたら、数メートル先の居酒屋からトシと総司が出てきた。
飛び跳ねて楽しそうにしている総司と、そんな相手を満足そうに見つめるトシ。
うわ、あんなトシの優しい顔、久し振りに見たな…。
声を掛けるか迷っていたら、二人はそのまま何処かに歩き出した。
悪いとは思いつつ、好奇心というか野次馬根性が勝って後を着ける。

「ごちそうさまでしたー。あの店美味かったですよ!また連れてってくれます?」

「ああ。鍋もあったな。次はソレにすっか。そろそろ時季だし」

「ん?土方さん、逆ですよこっち。どこ行くの?」

「お前ぇ紅葉狩りしてぇって言ってただろ?この先の茶屋に紅葉の夜景見せてる部屋あるんだよ。嵐山までは連れてけねぇが、せめてな」

「ホント!!充分ですよ!…へへ、土方さんだいすき」

「知ってらァ」

ぐぉおおぉラブラブだあぁ!恋人と一緒に紅葉の夜景かぁああ!
俺もそんな贅沢してみてぇよ!羨ましいぃぃぃぃ!!

「忙しかったんでしょう?お礼に肩揉み任せて下さいね」

「そうか」

「あとは背中とかぁ、」

「それより下半身を重点的に頼むわ。今もコリが酷ぇんだよ」

「えっ、…もぅ、すけべ」

「そんな顔すんじゃねぇよ。紅葉なんか見させてやる余裕無くなるぞ」


トシィィィ!!ちょお前いつからそんな子にぃぃ!いや、吉原でも祗園でも数々の武勇伝とかは知ってるけどさぁ!
副長さんは男前であっちも巧いけど態度も言葉も冷たい、でもそこが堪らない、
って噂だったよねぇーー?あれぇ!?甘甘でデレデレなんだけどぉ!!!

「しっかし、だいぶ寒くなったなー」

「そうですね」

「って、こんな道の真ん中でくっつくな」

「暗いから大丈夫ですよ。手くらい、いいでしょ?」

「ったく…冷たくなってんじゃねぇかお前。ホラ着くまで上着羽織ってろ」

「え、でも、それじゃ土方さんが寒いだろうし…」

「お前に風邪ひかせるよりはマシだ」

なんだろ、後をつけるのが馬鹿らしくなってきました。虚しくなってきました。
これっていわゆるアテラレタってやつ?胸がムカムカします…。
もうヤダ何こいつら。腹が立ってきた。後付けて盗み聞きしてんの俺だけど腹立ってきた。
いや、カップルってみんなこうなの?これが普通なの?勇ワカンナイ!うわぁああん深雪ィイイ!!!



後をつけたのはここまで。ちょっと高級な出逢い茶屋に入って行く二人を、なんともしょっぱい気持ちで見送った。

「……戻ろ」

深雪に逢う為に出てきたのに、気持ちをそがれたというか何というか…。
とにかく屯所に戻って眠りたい気分になった。フテ寝かもしれない。

トボトボ歩きながら、思考はあの二人がこれから致すであろう事に及ぶ。

「そうだ、総司ってどんな顔すんだろ…」

トシに抱かれる時。普段はあんなに無邪気で可愛い子なのにトシとああしているとなーんか色っぽいし、
あの鬼副長をメロンメロンにしちゃうんだから、相当アッチの具合も…。

「――ってイカーーン!!そそ、そそそ総司を相手に何考えてんの俺ぇぇぇ!!こんなこと考えたのがバレたら斬られる!殺されちゃうー!!」

うっかり花街のど真ん中だと言うことを忘れて叫んでしまった。
内容が斬られるとか殺されちゃうだったせいもあって、側にいた見巡り組に職務質問された。最悪だ。
俺の顔を覚えていてくれた人が居たお陰で直ぐに解放されたが、この事がバレてもトシに怒られちゃう…。
明日正直に話そうか。でも総司のくだりは内緒だな!










「あの野郎…後付けて来やがって。店まで入ってきたら殴ってやろうかと…」

「もぅ、そんなこと言って。幾ら近藤さんが空気読めない人でも、さすがにそれは無いですよ」










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