京都土方攻novel

□ugly customer
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歳三さんは過保護だ。
アイツはそんなことを言ったらしく。昨日、俺はその話題でさんざん揶揄れた。

俺が公言した訳でも無いのに周囲の連中は俺と、その総司との関係に気付いたようで、別に隠してた訳でも知られたくなかった訳でも無いからソレはいいとして、
アンタ心配性だし。彼氏じゃなくて保護者じゃねぇか。と言われて、それを否定すれば、
心配と束縛を履き違えるなよ。とか言いやがる。

確かに俺はこれまで総司を弟分として愛でて…目に掛けてきて。更に言えば我ながら欲深く執着心が無いとは言い切れない。
それでも、俺が心配性なんじゃねぇ。アイツが危なっかし過ぎるんだろ。
そう言い返せば、でもそんなところが可愛いんだろ?と正に図星を射され、それ以上は言い返せなかった。(殴り飛ばしてやったが)

だからと言って、だ。


「なぁ、ひとりなんだろ?俺らと遊ぼうよ」

「いや、本当に人を待ってるんですけど」

「さっきからずっと居るじゃねぇかィ。そこで茶でもご馳走するからさ」

昨日の今日で、この状況に遭遇するのはどうなんだよ

「コイツに何か用か?」

あくまでも平静を装い声を掛ければ、相手の野郎共は途端に顔面蒼白にし。言葉を濁しつつもあっさり足早に去って行った。

「来るのが遅いから行けないんですよ」

何か言われると思ったのか、さっそく小生意気に宣う俺の心労の原因。
フンと鼻を鳴らし顔を背けるコイツの危なっかしさと言ったら、実は俺を心配させようと企んでねぇか?と疑うほどだ。
いや、本当に危険が及ぼうモノなら、悲しいかな、俺より幾分か勝る腕を持っているコイツだ。自衛は出来る筈だから心配などせずに済むんだろうが、

「感謝されても文句を言われる筋合いはねぇぞ」

「待たされなかったら声も掛けられなかったんです」

「は?待たせてねぇ」

約束した刻限には未だ余裕がある。
そもそも、こうして総司を連れ出し。商いの終り次第に町で落ち合う時は決まって、行商を上手く普段以上に適当…適度に済ませるから遅れる訳がない。
況してやこんな事があったのは一度や二度じゃねぇし。尚更、俺が遅れる訳にはいかねぇ。

そして、俺がこの道に出たとき既に通りの奥に、総司(と、さきっきの野郎共)は見えていたのだ。

「いつからココに居た?」

「んー…いつからだろ?」

「なんで分かんねぇンだよ。バカだろテメェ」

「うるさいなぁ。余裕もって来たからあんまり気にしなかったんですー。たぶん半時も経ってませんよ」

おいおいおい…半時近くは一人で待っていたってか?こんな人通りの多い所で

「そんな早く来ても仕方ねぇだろ。こんな所に一人で居たら声掛けろって言ってるようなもンじゃねぇか」

「そんなことありません。世の男がみーんな歳三さんじゃあるまいし」

「あんな奴等と俺を一緒にするな。テメェがそう思わなくても、回りはそう思うっつーことだ」

コイツの何が悪いかって、こうして何も自覚をしてねぇ事に限る。
そしてそれこそが俺の一番の心労の根元と言っても過言じゃない。

剣の腕っぷしならそんじょそこらの男より遥かに優れ。何より男である総司に対し俺が危惧する訳は、
コイツみたいなの(この俺がモノにすると決めたのだから当然と言えば当然だが贔屓目で見なくても平均よりかなり可愛いと思う)がぼーっと長い間つっ立っていりゃ、当然ながら野郎共は放っとかない。
胴着を着て竹刀を持っていれば多少は様になるものの、今日のように着流し一枚で出歩く時は案の定で。
今まさにこうして立ち話をしている最中にも、あきらかに如何わしい野郎の視線が至る所から此方へ向けられているのが、俺には分かってしまえる。
そんでコイツは鈍い。いや鈍いと言うかバカだろう。
あーしていちいち相手をしている辺りコイツは危機感などクソも感じていない。

そして只でさえ道場以外は隙だらけなのに、この暑い時季、今日はいつもより襟が抜けてる気がしてきた。
ちょ、細っせぇ項とか目立ってンじゃね?俺の邪な目にそう見えるだけなのか。いや、そんなことはねぇぞ断じて。

って…いやいや待て、俺のことはいいとして。だ。
事実、総司は声を掛けられていて、それを強く突っぱねるどころか平然としている事が問題であり。
剣の腕前は差し引き、こう丸腰の時には危なくて仕方無ぇって話だ。

「とにかく、」俺は頭の中で切り返し。

「頼むから、あんま俺を心配させンな」

「はいはい。そんなだから永倉さん達にも笑われちゃうんですよ。歳三さんは過保護だって」

いや、心配性とは言われたが、過保護だと笑ってやがるのはコイツだけだろ。
そして、まるで聞く耳を持っちゃいない総司の口振りだ。いやいや、だから俺は何も悪くねぇだろうが。

「心配してなにが悪ィってンだよ」

「悪いですよ」

「…はァ?」

間髪入れずに総司は返し。俺が思わず押し黙ると、柳眉を吊り上げながら総司が俺を睨み見た。
まぁ、それが俺から見ると上目だから覇気も何もあったモノでは無いが。


「いつまでそう過保護なんですか貴方は。そんなんじゃ今までと何も変わらないし…もうこれ迄と違うんじゃない、んですか…?」


自分から切り出しておきながら仕舞いには言い淀み。顔をほんのり赤らめやがるから、不覚にも、どきりとした。

これ迄と違う・・・。

いつまでもガキ扱いするな。と不満があるのかと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。
過保護とか、もう親兄弟に似た情を受けるような間柄じゃ無い。と。
つい昨日、彼氏じゃなくて保護者だろう。と俺は指摘されたばかりだが、まさか、総司までがそれを気にしているのは知らなかった。

そーきたか、と思わず溜め息が身の淵から漏れる。

俺を丸め込むのにワザとやってンじゃねぇかとか勘ぐってみるくせに、結局は、ハマる俺がいる。
このまま抱き締めてしまいたい衝動に駆られた。とき既に俺の手が伸びちまっていたが、
真っ昼間のこの人込みでそんな事を仕出かすほど理性がないわけでもなく。
俺は代わりにその手を総司の頭に翳して、撫でた。

「俺ァ心配だっつってンだ。過保護じゃねぇ。テメェが大切だからだ」

それくらいは許せ、と念を押せば、総司は俺を見上げ擽ったそうに笑った。


「じゃあそう言う事にしておきます。言ったからにはなんかあった時は駆け付けてくれないとヤですよ」

なんて総司に俺はまた面食らう。コイツはときどきこう言う事を言うから、俺は。きっと


駆け付けろだ? そんな風に言われちゃ、間違っても目ぇ離せねぇじゃねぇか。ってモンで。

「そんならオメェは、俺の目の届く範囲にいろよ」

もう保護者代わりでも無い俺が言えば、本当に心配というよりはただの束縛だな。と思えば。
ほら見ろ。と、後方にある八百屋の軒先に隠れているつもりだろうか、コッチを伺う見覚えある野次馬連中が笑っていやがり。無性に苛立った。










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