Paordy-novel

□ティー・ブレイク
1ページ/2ページ


駅に隣接する某ファーストフード店。

「オールドファッションのハニーとショコラマロンパイ。それとアイスラテ」

そう告げる相馬の隣のカウンターでは、安富も2つのドーナッツとアイスカフェオレを頼み。トレーを受け取る。
時間帯的に2人の他にも様々な制服を着た学生達が居る中で二人は窓際のテーブルに向かい合うよう座った


「今日、野村は?」

事も無さげに問う安富を俄に横目で見て、相馬は指先でストローを回す。
上のベージュと下層のミルクが綺麗なマーブル状に混ざり合ってゆく

「……さぁな。そこまで俺は管理してない」

野村が何処で誰と何をしていようが自分には関係無い。と、はっきり言わない辺りが相馬の性か

「朝も一緒に来てなかったよね」

「アイツ、昨日は伊庭さんの部屋に飲みに行ってたし」

「喧嘩でもした?」

「いいや…してないよ」

チョコファッションをかじりつつ続けざま質問してくる安富に、相馬は頚を傾げた

「もしかして、それを気にして俺を誘ったのか?」

「え?いや、違う違う」

あははと笑う安富から相馬に声を掛けてきた事で今に至るのだ。



今日は相馬の務める委員会も無く、放課後とくに用事も無かった。
頭を過る事と言えば、寮に戻ったら読み掛けの本を進めようとか、その前にまず明日の授業に必要な予習科目は…とかで。
靴を履いた頃合いに、酒盛りで二日酔い気味だと言った野村を朝見掛けたきり教室に来ないし会っていないから部屋に帰って寝てるのかもしれない…くらいだ。
野村が教室や帰り際に居るも居ないも既に当然の事で、見当たら無いと言って相馬が探す事はまず無い。
例え自分が学級委員だからと注意したところで聞く相手でもなければ、二人で帰ろうと思う訳でもない。
そりゃ仮にも恋仲と言う間柄ではあるが、自由奔放が野村なのだから、それを相馬は拒まないだけの事だ


玄関でたまたま鉢合わせた安富も一人だった。
この友人も大抵、登下校の相方が決まっていると知っていて相馬が聞いた

「大野は一緒じゃないのか?」

「あぁ、部活の助っ人頼まれたとか聞いた。先週から朝も放課後もびっしり出てるみたいだけど」

「へぇ、気付かなかった」

「そっか。相馬は委員で忙がしかったんだし。教室でしか会う暇無いからじゃないか?」

「大野って頼まれると断れない性格してるよな。それに器用だし、要領いいし」

だから、気兼ねも遠慮も無く助っ人なんてモノを簡単に頼まれて引き受けてしまうタチなんだろうと相馬は納得。
そんな相馬も不良のお守りやら学級委員を難なくこなす優等生なのだから、人の事を言えた義理では無いが

「俺ならイヤだね。しかもタダで請け負うなんて、考えられない」

少し口調を強めるそんな安富の将来希望職は公認会計士である。

校門の前まで来た時に安富が言った

「ちょっと寄り道して行かない?もちろん、相馬に奢らせようなんて思って無いよ」

割勘で、と満面の笑みで促す安富。
それが冗談のつもりかどうか相馬には分からないが誘いを断る理由など無く、笑顔一つ返事で返し。
二人で校舎を後にした




確かに昨夜…と言うより、
昨日の午後には野村から泊まりに行くと聞いた相馬。それから野村は案の定その日も教室に留まる事をせず。今朝、登校した際に玄関で挨拶程度に一度だけ野村と会ったのだが。
顔を合わせていないだけで喧嘩をした覚えは無かった。少なくとも相馬にはそんな覚えが無い


「誘ったのは何となくだよ。相馬と二人ってのもたまにはさ」

「それもそうだな」

「あ、ハニーファッションと俺の北海道塩あずき、半分で交換する?」

「良いよ」

「大丈夫、値段は同じだからフェアな取引だ」

「いや、そんなの気にしないから」

談笑しながらドーナッツを分けて二人のお茶会は続き

相馬のカフェラテも残り半分まできた時、安富もカフェオレを飲みながら突如、唐突に切り出した。


「学校で野村とキスした事って、ある?」


ゲフッ!

相馬は噎せた。

「なっ、ゲホッ…、ちょ、えっ?!がッ、学校っ!?」

気管にラテが入り込み相馬は涙目になる。
野村との関係は既に筒抜けだが、まさかの質問に動揺しないではいられない。
少し呼吸を調えて、痺れる喉にまたオレを流し込み。そして一息つき、相馬は滲む眼で安富を見た

「…そんなこと、知りたいのか?」

「否定しないって事は、あるんだ」

「そうじゃないっ!」

「分かりやすいよ、お前」

店内で騒ぐのもどうかと思う相馬は、肩を揺らして笑う安富に唇を噛む程度に留める

「で、あるんだよね」

「………ぁ、ある、」

根は素直な相馬。
ただ直ぐ間髪入れずに言い切った

「けど俺はしたくてしてるんじゃないっ!!」

「してるって事は、何回もあるんだ」

「っ、」

その相馬の素直さが仇となった。それでも業を煮やそうと頑張る

「俺は一度も認知してないからな!なのに、毎度毎度アイツが急にっ…!」

「そりゃ分かるよ。相馬に、そんな芸当が出来るとは思えないし」

「当たり前だっ!学校だぞっ!?」

笑うのを止めない安富に、相馬は鼻をフンと鳴らしてやった

寮の部屋なら未しも(それも時と場合によるが)いつ人目につくか分からない所で出来ようも無い。
況してや学校などと言う教育の場だ。相馬としては言語道断である。
しかし、そう気を張っているのは相馬だけで、男子校だし、何より野村と相馬、教室に居れば居たで野村は相馬にベッタリだ。
誰が目撃したところで驚いても納得されてしまうのがオチだろう。野村なら開き直るかもしれない。と言うのが安富の見解だ

「ゴメンゴメン。怒らせるつもり無いから、落ち着けって」

「別に、安富が謝ることじゃ無い。思い出したらあの馬鹿に腹が立ってきた」

相馬は吐き捨てるとコップのストローを抜き取り、
残りを一思いに煽った。

「それじゃ素直に教えてくれた相馬くんに、先に口止め料払っとくわ」

「は?」

「それと同じモノで良いだろ?」

「え?…あぁ…」

相馬が目を丸くしている間に、安富は財布だけ持って席を立つと、レジカウンターに向かって行った。

そこで漸く、
野村との関係を知っているし。何しろキス以上の関係だと言ったところで(そんな話も他人に出来る訳が無いが)今更ながら何の支障も無いだろう安富と言えど、
学校でキスをした事があるなどと軽々しく暴露してしまった自分に、果てしない後悔の念と呆れが襲い来る

本当に、本当の事をいまここで言う必要があったのだろうか。そして何故、安富がそんな事を急に知りたがるのだろうか。
ただ、たとえそれを安富に聞いたところで何となく、と言われそうだ。揶揄れているに違い無い。

相馬は視線を窓へ流し、人知れず溜め息を吐き出した

自分が思わず自棄になって答えてしまったのは、
実はつい今朝方に、事が起こっていたからだった。



今朝、相馬は担任から用事を頼まれていて、少しだけ登校するのが早かった。
もの静かな玄関で、靴箱から靴を出し、靴を履こうとしたところで、背後から奇襲に遭った

「わっ!?」

抱き着かれて硬直した体がひっくり返され、その直後に唇を奪われる

「んむっっ?!」

見開いた眼で見た相手は、野村だ。相馬もそこはもう驚く事じゃない。

「っ、馬鹿野郎っっ!!」

即座に引き剥がし怒鳴り声を浴びせる相馬に、爽やかな朝に似合う笑みをにぱっと満面に浮かべる野村

「お前、今日も早いな」

「この酔っ払いがっ!!なに考えてんだよっ」

「残念だが、とっくに酒は抜けちまった。ただ頭に響くから、怒鳴るなよ」

二日酔いしてンだ。と野村は相馬に甘えるよう凭れ掛かってくる

「顔を洗ってこっ…ふぅ!」

説教は聴かないと言わんばかりに、肩と後頭部がガッチリ捕えられて、また噛み付くよう唇が深く重なった

「ん、んん゙〜〜ッ!!」

腕を強く引いて鳩尾に一発蹴りでも、と動いた相馬の脚の間に野村の脚が入り込み、簡単に動きが封じ込まれた。
喧嘩は特技の野村が相手では敵わない。
ドンっと相馬の背中が靴箱に押し当たり。野村の片方の手が腰を引き寄せ、もう片方の手は相馬の指と指の間に指が捩じ込まれる。
クチ…と粘膜の音がどちらかともなく漏れ。
咥内で絡む舌に相馬の背にゾクゾクと甘い痺れが走りだすと、肩と脚も震え始め。相馬はそのまま愛撫を許してしまう


「ぅン、んん…っは、ん」

っとに、
朝からコイツはっ…!!
俺より早いって事は呑んでそのまま来たのかっ

相馬が抵抗に(体裁に)渾身の力を出す一瞬早く、野村の体が離れ、二人の間に糸が伝う。
息を乱す緩んだ相馬の顔を見据えた野村は、如何にも満足気だった


「おはよう、相馬」

語尾にはハートが付いている。
支えを無くし体勢を傾ける相馬の額へ野村はフレンチキスを残し、背中を向けた

「二日酔いを堪えてわざわざ来たんだ。俺、エラくね?」

鼻高々と得意気な野村。
何の話だ、と眼だけで睨むと野村の指が壁を指す


そこには

[挨拶はキチンとしましょう月間!─生徒会]

と言う張り紙。


「そんじゃ俺は帰って寝る。おやすみ」


「っ、何がおやすみだっ!間ともな挨拶を出来ないのかァっ!!帰るな野村アァ!!」

笑いながら校舎を走り去る野村に、相馬のぶん投げた靴は届かなかった








…と言う顛末だが、
その全貌を全て安富は見ていたのだろうか…?
しかし、辺りには確かに人は居なかった筈だ。と、あくまで思いたい相馬である




●●
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ