Paordy-novel

□慌てん坊のサンタさん
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いま俺は、とてつもななく急いでる。
俗に言うホワイトクリスマスでも、俺の走る早さに雪は近くに寄って来ては
風で流されてゆくばかり。
体力に自信はあるが、息を切らすのは仕方無ぇ。
もう随分と、男女が犇めく街中を駆け抜けていた

そんな俺の格好は、真っ赤なズボンに同じ色をしたコート。
ファスナー部分やフードの縁には、真っ白なファーのオマケ付だ。
この時季にゃ見掛けない事はまず無いと言う子供に絶大な支持を誇るジィさんと同じモノ


ただ唯一雰囲気の欠片も無ぇのが、大きな白い袋を抱えてンじゃなくて。
手にしているのは、少し形が拠れた普通の学生鞄ってトコか…
それに、白い髭も走るのに煩わしくて取っちまった。
勿論、トナカイなんざ連れちゃいない。
そんなモノが居たら、俺がこうして走る必要も無ねぇ訳だが

こんな日に、こんな格好をした男が走ってるったァ。
そりゃ誰もが一度は振り向くだろ。

しかし、そんな視線など気にしてられねぇ

いま俺はとにかく、猛烈に急いでるって事だ。
向かう場所は勿論、
愛しい相馬が待つ俺の部屋

全寮制の学校とは何とも都合の良いモノで、相部屋のイイ仲な俺達は、実質上の同棲生活を謳歌中。
それに、実家に里帰りする気のさらさらない俺にとっちゃ、
長期の休みにもなりゃ都内でバイトし放題だ

今日はそのバイトが思うより長引いて帰りが遅れちまったンだが。
メールする時間さえも惜しくて連絡して無いけど、
相馬の事だから、怒ってはいないはず。
アイツなら絶対に分かってる!

この世間が浮足立つ聖夜と言う日の為に金貯めようって思っていたのが、
肝心なこの日もシフト入っちまって。正に本末転倒
まぁ…年末で短期のバイトっつったら、クリスマスも何も無ぇけどよ

それに、ケーキ屋の呼び込みだゼ!掻き入れ時のピンチヒッターってヤツ。
だから、こんなの着てンだけどな。
これでも、昨日のイブを我慢したから、クリスマスの今日は解放されて早い方なんだぞ!


学生の特権をフル活用してでも俺がバイトに熱意を注ぐ理由は只一つ
貯めた金でプレゼントを買うためだ

って、そんなこと言ったら、相馬の奴…
苦笑いして『何もいらない』の一点張り。
普段から俺がバイトして学費払って、堅実に貯金してンの知ってるし、
この日の為に掛け持ちしてンのも気にしていた


掛け持ちは今日までの事で、プレゼントの為だったが
貯金の理由ってのは話が別。俺の薔薇色の未来予想図の為の投資だ。
何を隠そう、卒業したら相馬にプロポーズしてやる予定(笑)
アイツが大学行ってる間に、俺は土木作業でもやって養ってやンだ。
体力だけには自信ある!

しかしそれが、今からクリスマスで気を使わせちまって…
俺ってそんなに頼り無ぇのか?

何て考えるのは後だっ、後!!今は取り敢えず走れ…俺っ!!!
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