Paordy-novel

□My weak point
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放課後待ち合わせをして、デートの約束をした。 デート、と呼称したら、当の相手には否定されてしまったけれど。

「……」

それでも野村は、寮の部屋に帰るまでのこの数時間を、今日は朝から一日中楽しみにしていた。
短い時間だからこそ、どこにいって何をして何を食べようか。それは考えるだけでも幸せで、何度中島に顔がにやけすぎだと怒られたかしれない。 けれど、今の野村にその雰囲気は微塵もなくなっている。

「なぁ……」

「……なに?」

「悪かったって言ってんだろ」

その言い方は、本当に自分が悪いとは思っていないだろうと、野村は口には出さず内心で深い息を吐いた。面倒臭いから謝っておこうというのが滲み出ている。
時刻はすっかり夕飯時間だ。こんな時間まで何を していたかと言えば、甘い甘いデートコースにいたわけではない。
近々予定されている学校主催の盆踊りの準備に勤しむ委員達がグラウンドの中央に櫓を構えていた、そんなところに出くわしてしまった ものだから、嫌な予感も過ぎる間もなく、相馬は野村をあっさりと置いてそちらへ駆け寄っていった。
彼が野村の存在を思い出してくれたのは、校門に立てられたアーケードに堂々と夏祭りと言う看板が掲げられた頃あたりだ。

「別に怒ってねぇよ」

「見るからに怒ってんだろ」

「怒ってねぇって。呆れてるだけだ」


「……どういう意味だよ」

「別に?そのまんまだけど」

喧嘩がしたいわけではない。それなのに、口からぽろぽろとこぼれる言葉は、隠しようもなく刺を含んでいた。 本当に、楽しみにしていたのだ。たった数時間の彼との逢瀬を、本当に、野村は楽しみにしていた。
だから自分よりも他を優先したこと が、どうしても許せなかった。
もちろん、生真面目過ぎる程の相馬の性格は熟知しているし、それで誰かが助かるのだから喜ばしいことでもあるのだけれど、それは綺麗事だ。
そうして、お疲れさん、と笑って労ってやれるほど、 野村は大人でもない。 恋人には何よりも自分を優先してほしい、子供の方だ。

「お前だって楽しみにしてるだろ、夏祭り…」

「・・・・・・・・・。」

「なんだよ……バカ……」

拗ねたような音が、隣から落ちる。そんな声を出されても、今更そっぽを向いてしまった野村のへそは治りそうもない。
ふと視線の先に、本日立ち寄ろうと思っていた店先が見えてきた。お気に入りのファーストフード店で夏限定の新作が出ただなんて話を聞いて、野村が食いつかないはずがない。
これを持ち帰って夕飯の軽食に二人で食べながらのんびりする、などというプランは、野村の中ではもう彼方のものだ。
野村はこの際だから食べて帰ろうと、自動ドアを潜った。少し涼しげな空気に賑やかな店内、それだけでも野村の心を浮足立たせてくれる。重かった胸の内が、少し軽くなった気さえし た。

「すんません、この夏の新作、2つともください」

「はい、有難うございます。店内でお召し上がりですか?」

「あ〜……はい」

「……持ち帰り、だろ」

「へっ……?」

突然、背後から丁寧な女性店員のものとはまったく違う、少々不機嫌混じりの声がかけられた。 もちろんそれは相馬に間違いないのだが、何故場所を指定してきたのかと疑問が浮かぶ。 徐ろに振り返れば、不貞腐れたような表情で視線を落とした相馬がそこにいた。

「部屋で、食う……だろ?」

言ってから不安でも思ったのか、ちらっと上げられた瞳が野村を窺っている。
野村の中で、試合終了のゴングが鳴った。

「あ〜すいません持ち帰りで!あと1つずつ追加お願いしまーす」



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