Paordy-novel
□Avanti di ciao,
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エレベーターまで走った。
急ぐ自分に対して扉はゆっくり閉まっていく。ああ、間に合わない。
目前で足を止める。しかし見送るつもりが、下に降りてしまうはずだったエレベーターは動かず、また扉がゆっくり開いた。
顔をあげると黒々しい髪の毛がガラスの向こうの太陽に反射していて眩しかった
「どーぞ」
彼が笑う。久しぶりに見た顔は緩い笑顔だった。
「…久しぶり」
「おう」
彼とは役職柄社内でもあんまり会わない。出勤する時間も休みの日も違うからすれ違うばかり。
その上最近まで自分は出張に行っていたからもう随分と会わなかった。
だと言うのにいきなり会ってエレベーターに二人きりなんて。
なんだかどきどきしてまともに彼の顔が見られなかった。そんな恋は学生のうちまでだろと嫌悪した。
互いが降りるまでにこの密閉された中で何か起こるだろうか。
キスとか。それ以上とか。
いや、いやいやいや。想像したら一気に顔が赤くなった。変態じゃあるまいし。
バレないように手で顔を覆うと余計怪しまれた。
「どうした?」
「なんでも…」
「キスしてやろうか」
「君…雰囲気もくそもない」
なんだか心を読まれた気がして焦った。彼は冗談と笑う。
そしてすぐエレベーターは止まり扉が開いた。こっちが何か言う前にじゃあな、と彼は私に言って出ていった。
彼の後ろ姿が小さくなると同時に扉がゆっくり閉まり、見えなくなった。
ああ、行っちゃった。
「…冗談なんだ」
なんかバカみたいと、私は壁にもたれた。期待とか、するもんじゃない。
終
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