Paordy-novel

□頬を染める2人
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冬が迫るこの時期になると、世の中が風邪だインフルエンザだと騒ぎ始める。
手洗いうがいを徹底的にしろ、マスクをしろと騒ぎ立てる世間に半ば辟易しつつも、今ではそれらが最低限どれだけ大切かを身をもって知った。


「んー……下がんないね」

「……寒ぃ。っつか熱い」

「どしたらいいの、それ」

ピピッ、と電子音を響かせた体温計を俺から抜き取りながら、榎本さんが眉を下げて小さく溜め息を吐いた。
そこに表示された数字は教えてもらえず、自分がどれだけの体温なのかここ二時間ほどはわからない。
ただ顔を曇らせるコイツから察しなくても、異常であるのはいま己自身が身を持って知っている。
最悪だ。折角の休日がこんなことで潰れるとは。

「なんか食べて、薬飲みなよ」

「こんなもん、寝てりゃ治る」

「寝てても治らないから熱が上がってんでしょうが」

「……」


反論できないのはその通りだからで、それでも食欲なんて微塵もないのだから仕方ない。
それ以前に正直なところ、体を起こすのもしんどい。ちょっと頭を動かすだけで目眩がする。
そんな弱みをこいつに見せたくないから、俺はさっきから布団に潜ったまま。
すると、手負いの獣じゃあるまいし。と突っ込まれ、布団から出された額に冷えピタが乗っかってくる。
見慣れた天井が今にも迫ってきそうな錯覚さえするのだから、風邪なんてひくもんじゃない。

「なんなら添い寝でもしてあげよっか?」

「あ?」

「ほら、風邪を引いたら汗をかいて熱を下げるっていう、」

「テメェ…ワザとに言ってんだろ、治ったら覚えてろよ」

「じゃあ言うこと聞いて、早く治してよ」

こんな時に限って、いや、こんな時だからこそ、悪戯っぽく不埒なことをぬかしてベッドの端に腰をかけた榎本さんが、幾分冷たい掌で俺の頬を撫でる。
熱いせいでその冷えた指先が心地良い。思ってても、死んだって口にはしてやらないが。
そして弱る俺を前に唇を緩める顔が憎たらしい。いや、いっそ腹立たしいといっても過言じゃない。ただの八つ当たりかもしれないが


「まぁまぁ、そんな不機嫌になったってひいたもんは仕方無いじゃん。ちゃんと甲斐甲斐しく看病するから」

「いっそのこと留目を刺してくれ…」

「ひどっ、」

「せめて大鳥さん呼べ、大鳥さん」

「あーもう煩い!病人は黙ってなよ」

口では傷付いた風に言っても、崩れた顔が俺を見下ろしている。
甘やかされるのは得意じゃない。寧ろ苦手だ。どう反応すればいいのか分からない。
こんな時くらい素直になれと言われたところで、なれるわけもない。なったらなったで相当具合が悪いと逆に心配されるだろう事は容易に想像できる。
慣れないことはするもんじゃねぇ。


「とりあえずお粥、食べなよ。折角作ったんだから」

「……食えんのかよ。食ったら俺死ぬんじゃね?」

「大概失礼だよね、君。大丈夫だよインスタントだもん。それから温かくして、ゆっくり寝て、ね?」

ずっとここにいるよ。と、
やっぱりどう見てもやけに楽しそうな榎本さんに訝しさを多分に含めた視線を送れば、誤魔化すように降って来た唇が額に触れてベッドから重さが離れていった。
大方、俺が寝込んだことであれこれ出来るのが嬉しいとか、そういうところだろう。覚えがある分、責めることも出来ないのが何とも言えない。
上等だ。必要以上にこき使ってやろうじゃないか。

一晩中いてくれる、それに安心したなんてのは言ってやらないけれど、すっと落ちた眠りで相手にはバレたかもしれない。








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風邪ひく副長を看病する榎本さんパロリクでした。
りー子ちゃんネタ提供ありがとー♪
しかしコレ榎本さん看病してなe……突貫創作でごめんなさい




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