Paordy-novel

□あきのひに
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「たまには、こんな感じもアリだよね?」

「まぁ、たまになら…」

最近出来たばかりのオープンカフェが美味しいランチを出すらしい。もちろん珈琲も最高なんだとか、
そんな情報を榎本が仕入れたのは昨日のことだった。
明日、一緒に行かない?
そう土方に提案し、案の定最初は渋ったものの土方は結局のところ今ここに来て、香りも味も申し分ない珈琲を楽しんでいる様子だ。
いつもは寝て終わらせるか溜まった家事を片付けているような、たかが休日、
けどもそれが土方と一緒となれば、榎本にとって少し特別な意味を持つ。


「洒落てるカフェ、オープンテラスで食べるランチ、天気は秋晴れだし。いい感じじゃん」

「アンタと行くっつったら大抵は居酒屋だしなぁ」

「それも譲れないけどね。こっちのほうが洒落てていいじゃん」

「あっそ」

胸を張って主張する榎本に、土方がクスっと遠慮なく声をこぼす。
秋を感じさせる風が緩んだ頬を撫でていった。

「あとは、本とかあれば文句ないかな」

「ああ、読書の秋?」

こんな天気のいい日に美味しい珈琲をお供に、お気に入りの小説を読む。
もう少し風は冷たいけれど、うん、悪くない。思って榎本は、弧を描いたままだった唇をカップの縁にあてて隠した。

「普通はソコで女ってのが出てくんじゃねぇの?」

「…ん?」

「こんなカフェに、男連れじゃあ絵にならねぇだろ」

カップを上げていてよかったと、歪んだ唇に榎本は思う。
煙草を宛がう口許に弧を描く目の前の男前を見ていると、胸の奥がじくじくと痛んだ。
男なのだから女の子の方がいいのは当たり前だ。それは自分も同じ男だからよく分かっているし。
辺りはどこもやはり男女だったり女同士だったり。今の自分が例外だというのも榎本は十分理解している。

「うん。確かに、男同士でいるよりかはよっぽどこういう場所にはいいかもね」

「だろ?」

吐いた強がりをニコニコと肯定され、榎本はますます傷口が開いた気分だった。
自棄のように口付けたカップは、珈琲の酸味しか舌に残らない。
先程まではあんなに美味しく思っていたのにと榎本は、自身の落胆ぶりに残り少ない冷めた水面を見つめた。
それじゃ自分の誘いをキッパリ断ればよかったのに、と土方に対して怨みも思う。
そうしたらこんな気分を抱かず済んだのにと、思えば思うほど、榎本の胸はますます痛んだ。この傷に塗る薬は、まだ見付けられていない。
ならばさっさと帰ろう。そう決めて榎本は、もう美味しくはない珈琲を一気に煽った。

「まぁ、俺はアンタと居れりゃどこでも構わねぇけど」

「ぶっ!」

まさに不意打ちだ。
テーブルに頬杖を付いて、揶揄するようにでも無くて、ほんわりした顔で告げられた土方の科白は、
最後の一口だったものを霧状にして榎本に吐き出させた。

「うわ、ちょっおまっ…」

「っ、、なにっ、げほっ」

「取り敢えず、大丈夫か?」

「はっ、や、」

「なんだよ、嫌なのかよ」

「ちがっ・・・」

急に何を言い出すんだ、と息も絶え絶えに告げれば、
思ったことを素直に言っただけだと返される。
土方がどういうつもりで言ったかは知らないが、榎本としては頬が熱くなる思いでいっぱいだ。
この遊び人な男前はどうせ男同士でいる方が気が楽だとかそういうことだろう。そう思うのに、榎本の心は僅かな期待に脈が早足で駆けている。
取り出したハンカチで口元を拭いながらちらと土方を見遣れば、空になったカップをソーサーに戻しながら、もうひとつ飲もうか否かと、すでに違う話題に思考が飛んでいる。
幸か不幸か、榎本としては複雑な心境だ。
それでも傷だらけだったはずの胸はもう、先程までの痛みを無くしていた。

「なぁ」

「な、なに?」

「追加すんのか?」

「……する。チーズケーキのセット」

「夕飯食えなくなるぞ」

「食べたい」

「あっそ」

頬の赤みは噎せたせいにしよう。土方が片手を上げて店員を呼んでいる横で、榎本は人知れず息を付いた。
注文して、ケーキが届いて、色々話しながら、珈琲を飲んで、ケーキを味わって食べ終わるのに、少なくとももう30分は時間を掛けよう。
その分だけ、デートは延長だ。







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猛烈アタック中の総裁一方的デート(でも副長はとっくに気付いてる)な結局両思い。




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