箱館他CP

□full moon
1ページ/1ページ


宵の口か。見上げた空は微かに橙の混ざった藍色。
今から、もう間もなく完全な夜になる。本日は十五夜。
薄く浮かぶ月は完全に満ちていて、まるで神秘的な光を放っていた。


「……。」

「よ、今日は俺が先約だ」

また勝手に、性懲りも無く不法乗船しやがって。
甲板の端の手すりに体を寄せながら、俺を横目で見て笑う磐吉。
ち、と俺は舌打ちして幾らか距離を置いて腰を下ろした。
手すりに背中を預けて、てめぇなんぞどうでも良いと倉庫から取ってきた酒を煽り煙草に火を灯す。

「海の上じゃ薄も団子も用意出来ねぇが、正に特等席ってヤツだな」

贅沢にも月が2つあるぜ。と言う磐吉と俺の頭の上にぽっかり浮かぶ十五夜の満月。そして穏やかな水面に映る水面の満月。
何が面白ぇのかくつくつ笑うこいつは手すりから体を離すと、ゆっくりした足取りで俺との距離を詰め隣に座った。
だから俺は、よっこらしょと腰を浮かして、次に降ろしたのは胡座をかいた磐吉のその膝の上。

「こっちの方が特等席だな。月見するにゃ良い椅子だ」

「げん、」

言葉を途中でぱくり、飲み込んでやる。こいつの唇は厭に柔らかかった。








--------------

十五夜の夜に。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ