箱館他CP

□A pas de loup
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すき、と伝えたのは三週間前。俺も、と返事をもらったのは二週間前。
そうなって、意識して手を繋いだのは、それから三日後。
そしてもう半歩…もう一歩、近付きたいと思うのは、男子として、早過ぎではない…よな?




「あのさ、鉄」

「なに…?」

買い物帰り。もうすぐ奉行所という道すがら、思わず少しだけ上擦った俺の声に鉄は振り向く。
当然といえば当然の訝しげな視線が俺を貫いた。
そんなものでも自分を映してくれたという事実に心が弾む。
俺ってば、我ながらお手軽というか、なんというか。


「あの、よ…」

「っ!…な、なんだよ」

空いた、というより空けた右手で鉄の左手をそっと取る。
掌に滲んでいた汗は寸前にズボンで拭った。べったりした手なんて最悪だもんな。
手を握った途端に体を強張らせた鉄が途端に頬に朱色を走らせて俺を見る。
ああもう、そんな顔で俺を見るなバカ。くそ、俺だって恥ずかしいんだよ。
でも、これ全部お前のせいだから。


「なぁ、」

「だ、だからなんだよ!」

「キス、していい?」

「へっ…、……えっ!?」

頭からキノコ型の湯気が出るんじゃないかと思うほど爆発的に鉄の顔が真っ赤に染まった。
足まで止めてしまったから俺も必然歩みを止めて一歩先から鉄を振り返る。
金魚みたいに口をぱくぱくさせている鉄は、可愛い。
口に出したら怒りそうだから言わないけど。
抱き付いてもいいんだけど、そうしたら今の鉄は倒れるんじゃないかと思うから、非常に惜しいけどやめておこう。

「ダメ…?」

「なっ、えっ…、キ…?…えっ」

「嫌なのか?」

目をきょろきょろさせながら鉄はアホみたいな途切れた単音を紡ぐ。
情報処理が間に合わないのかな、本当に頭から煙が出そうだ。
思わず惑って呼び掛けたけど、それも届いてないみたいだ。
吹いた風が冷たさを残して2人の間を走っていく。


「ぎ…銀、なんだって?」

「いや、だからキスだよ。キス。せっぷ、」

「わあああっ!わああっそれ以上言うなあっ!」


訊いたのは鉄なのになんだそのオーバーリアクションは。
袋を下げた右手をぶんぶんと振るもんだから、がさがさと買い物袋の擦れる音も盛大になっている。
今まで見たことのないその必死な姿が、めちゃくちゃ可笑しいけど、可愛くて、暖かさが胸を満たしていく。
愛しいって言う感情くらい俺だってわかる。
寒さなんてどっかに飛んでっちゃいそうなくらい内側からほくほくと体が暖かくなった。

「なっ、なんで急に、そんなっ」

「急じゃないよ。ちょっと前からずっと思ってたし」

「でもっ、でも今初めて言われたぞ!急だろうが!」

「だって、今したくなったんだもん。待ってたらお前から誘ってくれたのかよ」

「っぅあ、それ…は…」

「ほらな。だから俺から言ってみた。けど…お前は、こーいうこと考えないんだな…」

俯き加減で上目に言ったら、考えないわけじゃない!と真っ赤な顔で怒鳴られた。
それでも、さっきから繋いだ手を振りほどかれないのは、少しくらい、期待してもいいのだろうか…なんて都合の良い解釈をする俺。
だから、今日はこれだけで満足しといてやろう。


「あ、鉄!あれ見て!」

「へっ?…っ…なっ!」

俺が指差した空には、何もない。ただ水色の空に綿菓子みたいな雲が浮いているだけ。
それでも反射的に倣ってその方向へ顔を向けた鉄の好奇心に今はとっても感謝。
あっさり表れた頬に、ちゅっ、と音を立ててキスひとつ。すぐに離れたけれど、
弾かれたようにこっちを向いた鉄の顔はこれまで以上に真っ赤だった。
これは、これで面白いから。次に進むのは、まだまだ先かな。






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相変わらず小悪魔な我が家の銀ちゃんでした。キスってのは総裁が教えたんだと思います。




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