箱館他CP
□君だから恋をした
1ページ/1ページ
京の盆地で外はまさに熱帯夜というその日。
屯所は見廻りやら宴会やらで人が疎らな事を良いことに、相馬は夕刻辺りからずっと部屋で横になっていた
「くそ、」
珍しく夏バテというものに見舞われ、二つ折りにした座布団にぐったりと顔を埋める。
武士たる者、新選組隊士たる者、暑さに根をあげるなど…と言う意志はあっても体はなかなか思うよう付いていかない。
見廻り後、何もする気にならずこのまま寝てしまおうかと思っていたその時に…
「片付けて来たぜ〜」
声の主、野村と屯所へ帰還して来るなり夕食を向かえた訳だが、
食欲がない!と言って相馬は拒否したのに、食べなきゃダメだ!と野村に、わざわざ部屋までお膳を持って来られて半ば強制的に食事を取らされたところだ。
普段なら、酒を飲み過ぎるなとか、着物は畳めとか、口を酸っぱくして言っているのは相馬の方だが、こんな時ばかりは野村の方が口五月蝿い。
「お疲れ…。ありがとな」
持って来たからには当然だと膳を厨へ片付け終えた野村に、二つ折りした座布団を抱え踞る相馬は背中越しに返す。
取り合えず礼の一言を告げると、おぅ。と返した野村は寝転ぶ相馬の頭元に腰を下ろした。
一際派手で賑やかな足音でも分かる程に、野村は元気が有り余ってるようだ。
「そんなに気怠いか?」
「ん〜…」
野村が真上から覗き込み髪を撫でながら問うと、相馬は顔だけ向けてそれこそ気怠げに答えた。
「動くのが面倒…」
撫でる野村の手を振り払うでもなく大人しく撫でられる相馬は瞼を閉じながら小さく呟いた。
日頃、隊務に忠実で妥協を許さない相馬は私生活にも生真面目を絵に描いたような奴であるが、
それが屯所でこうもだらけているのは寧ろ奇跡に近い。いや、そんな普段の相馬を知っているからこそ、よほど辛いのかと野村は心配だ。
「なんか俺に出来る事あるか?」
頭を使う事は不得意で無鉄砲だと方々で言われる野村は、相馬の代わりに出来る事は少ないだろうと自覚はしている。
それでも何か役に立てば。と、そんな野村に相馬は目を細めてその顔を見上げる
「ん……なんもないが」
溜息と共に科白を吐くと、触れていた野村の右手が、そっと引かれていった。
「もしや…俺、邪魔だったりする、か…?」
ただ喋る拍子に吐いた溜息にそれを勝手に読み取ったのか、見れば淋しさを露に相馬を見下ろしている。
己が煩いと言う事も野村は方々から言われ続けているため自覚しているのだろう。まるで叱られた童子のよう悲壮感が満面に浮かんでいた。
「バーカ。お前はそこにいるだけでいい」
引かれたの右手を取って言うと、相馬はふわりと柔らかく笑ってみせた。
「うわ……なんか弱ってる相馬…新鮮」
思いもよらなかったその温もりに、ポッと頬を赤らめながらが小さくぼそっと呟く野村。
五月蝿い。といつもなら容赦なく鉄槌を御見舞いしてる所だがそれが聞こえなかったのが幸いか相馬はその腕を額に乗せ、また一つ深く息を吐いた。
「何か涼しくなるモンでも持ってくればよかったか?水羊羮とか、心太とか」
「あ〜?食欲ないとこ飯食わせたのお前だろ。もう何もいらないよ」
目蓋を伏せたまま相馬が軽く笑みを溢す。
「んじゃ俺の元気、分けてやろうか」
野村は徐に手にある相馬の右手に口許で触れた。
何すんだ…とうっすら開いた相馬の瞳に映ったのは、間近にある野村の顔。
驚いている間もなく唇が重なり、小さく啄んだ音をたててそれは離れていった。
「不意打ちかよ…」
「はは…元気出ただろ?」
半身相馬に覆いかぶさり、両腕をその顔の脇に置いてニヤリと笑って見せた野村。
罵声覚悟だったのに。
「……ん…もっと…」
「へっ?」
首に両腕を回して引き寄せた相馬に上目遣いに強請られ、野村が素っ頓狂な声をあげた。
「主計ちゃん…誘ってる?」
「これ以上ダルくなる気はない」
要するにキスだけ。と相馬が簡潔に述べれば、野村が肩を落としたのは言うまでもないが、それで挫けないのも野村だ。
「お前にその気がなくてもな、俺の下半身は夏バテ知らずなんで今にも熱を発散させ、」
「てみろよ。そのまま無理矢理叩っ斬って涼しい鴨川に沈めてやるから」
「おまっ、鬼ィ〜…!」
恨めしそうに言った野村に、相馬がくすくすと悪戯な笑みを浮かべる。
膨らむ野村の頬を指で突いて、空いた掌で頭を抱き寄せると相馬は自ら唇を合わせ。
野村には、にっこり笑った相馬が鬼にも仏にも見えた
「元気だけは有り余ってそうだから、少しくらい貰ってやるよ」
「止まんなくなっても知らねーぞ?」
「だから、そん時はちゃんと叩っ斬るから心配いらん」
「主計ちゃ〜ん」
オイオイと肩に顔を埋めて泣き真似をする野村に、今度は相馬が楽しいと言わんばかりの顔でよしよしとその頭を撫でてやる。
「こうなったら俺がその気にさせてやる!」
バッと勢い良く顔を上げ、それはそれは真剣な眼差しで野村が宣戦布告。
あまりに単純なその野村に堪えず吹き出した相馬は、その額に唇で触れて意地悪く笑んで見せる。
「やれるもんなら?その気にさせてみろよ」
珍しく挑発的な相馬が意気込む野村の顎を指で捉えてその瞳を覗き込んだ。
覚えず野村の喉がごくりと鳴る。
「折角のお誘いですから?遠慮なく?」
「お前の元気…いっぱい分けろよ?」
言ってニマッと笑った双方。野村が静かに唇を重ね。体に掛かる重みに瞳を閉じながら、相馬は静かに野村へ腕を回し、その心地よさに身を任せていった。
終
------------
暑い時季にこれまた熱いネタをスンマセンでした