箱館他CP

□まるで猫と犬
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気紛れに擦り寄って

捕まえようとすれば

逃げられる




まるで猫







「何やってんの源吾」

《にゃ〜…》

「え?…猫?!」

源吾を探してやっと見っけたと思ったら兵糧庫。
屈んでるから何かと思って横から覗くと目の前に突き出されたのは少し薄汚れた子猫だった。

「昨日見っけて、死にそうだったからここで匿ってやった」

兵糧庫のそれも奥の隅っこ。布が敷き詰められた小さな木箱もある

「そっか。親とはぐれたんかな?」

「多分ね、かなり衰弱してるし」

「助けてやったんだ。源吾は優しいな」

「別に…猫は嫌いじゃないから」

小さな手で小さな子猫を撫でる源吾は普段は殆んど無表情だけど、微かに優しげな表情をしている

「でもこんな場所じゃ猫も可哀想だな。それに誰かに見っかるのもヤバくねぇか?」

最近、外は雪降ってばっかだし。勿論、兵糧庫に囲炉裏やストーブなんて無い。
しかも誰かに見っかれば捨てられっかもしれねぇじゃん

「…俺、荒井さんに部屋に入れる許可もらってくる」

「おい!―…」

突然、立ち上がった源吾は猫を抱えたまま、呼び止めるのも無視し走り去り。
俺も源吾だけじゃ心配だし、急いで後を追った









「気持ちは分かるが…これも自然の掟だからな」

「元気になるまででいいから置いてやってくれよ荒井さん。源吾がちゃんと面倒見るし」

「箱館政府を立ち上げたばかり、猫に構っていられる暇は無いだろ」

「それは、分かってっけど…」

唸る荒井さんから目線を落とすと、隣では無言で落ち込みかけてる源吾。

恋人の源吾にそんな顔されると辛ェな

「集まってどうしたの?」

「閣下!」

と、現れたのは榎本さん!めちゃくちゃ丁度良いところに!!

「これ見て下さい」


俺は早速、榎本さんに取り入るべく満面の笑みで榎本さんの前に、猫を抱える源吾を差し出した

「猫だぁ〜!」

子猫を前にテンション上げる榎本さんに、俺は猫耳が生えてるような幻覚が見える気がする…。
そして猫なで声を出す榎本さんに浸る荒井さんは無視しとく。関わりたくねぇ。

「かなり弱っててよ、源吾が助けてやりたいっつーわけで、許可くれよ」

「お願いします榎本さん」

「そう言う事なら仕方無いもんね」

榎本さんは、とびっきりの笑顔であっさりOK!

「しかし閣下…」

「ダメなの?」

そして榎本さんお得意の潤目の上目遣いに荒井さんは脳天をぶち抜かれた

「滅相も御座いません!」

「あの…荒井くん。鼻血が出てるけど大丈夫?」

荒井さんの鼻血はいつものことだから問題外。心配してやる榎本さんは律儀だ。


二人はさて置き、

「良かったな」

源吾は無言でコクと一つ頷いた。素直じゃない源吾が素直に喜びを表さないのはいつもだ。
でもその分、俺がちゃんと解ってやってるつもり。







さっそく猫と、兵糧庫に置きっぱなしだった小っさい箱を源吾の部屋に入れた。
源吾はずっと、ベッドに腰掛け膝の上に小刻みに震え続ける猫にホットミルクをスプーンで与えながら撫でている

「早く元気になるといいな、そいつ」

「食欲は戻ってきた」

「そっか」

俺は手当たり次第に手拭いやらをかき集め、薄い布が一枚だけ敷き詰められていた木箱にそれを入れた

「完成〜!見ろよ源吾。俺お手製コイツの家だ」

その木箱を手に俺も源吾の隣に腰を降ろす

「不器用な磐吉にしたら上等じゃん」

源吾の憎まれ口もいつものことだが、口は笑っているから喜んではくれているらしい。

「なぁ、名前つけてやっか」

「名前?」

今日からこの猫もこの部屋の住人だし、ちゃんと名前を付けてやんねぇとな。
そこで俺は暫し考えた

「源吾と磐吉を合わせて、源吉にすっか!」

「却下」

「なんでだよ!」

名案だと自信過剰に言ったら即答された

「源吉でいいよな〜。源吾から源の字を貰えるんだぜ」

《にゃ〜》

「ほらコイツも気に入ったってよ」

猫語なんて分かんねぇけど俺はそんな気がした

「俺、食堂行ってくる。魚か何かあるかもしれないし」

呆れた風に溜め息を漏らしたあと源吾は猫を俺お手製の家に入れ立ち上がった。
すると猫はよほど源吾になついてんのか付いて行こうと木箱から手を出し必死にもがいている

「お前は行けねぇっての。俺が源吉を見てっから早く戻って来いな」

鳴く源吉を俺は抱き上げた

「あぁ」

小走りでパタパタと駆けて行く源吾の足音が遠ざかって行くのを聞いた途端、
源吉は放せと言わんばかりに俺の手を引っ掻いた

「いて。何すんだよ!」

でもまだ爪もそんなに生えていない子猫に引っ掻かれても血は出ない。
源吉は俺の手をすり抜け、ベッドの上で毛繕いを始めた

「お前を部屋に入れる許可をもらってやったのは俺なんだぞ」

《にゃ?》

「猫が猫かぶりすんな!」

源吾にはなついてんのに俺に対しての態度はなんだ。


「入るよ〜。猫の様子はどう?」

俺が源吉と睨み合いをしていたところに榎本さんが嬉々として部屋に入って来た

「名前は源吉ってんだ。今ミルク飲んで少しは元気になったぞ」

俺に爪を立てるほどにな!

「名前つけてもらったんだ良かったね」

「あ、榎本さん!引っ掻かれるぞ」

「ん?」

榎本さんは難無く源吉を両手に抱き上げた

《にゃ〜》

「そんな事しないじゃん」

源吉は大人しく抱かれ榎本さんの頬まで嘗めてやがる。どことなく嬉しそうに見える源吉。

 コ イ ツ ・・・。


「ってか榎本さん、何しに来たんだ?まさか、源吉と遊ぶために脱け出して来たとかじゃアねぇよな?」

「ま、まさか〜」

図星か。頭良いくせに分かりやすい性格だもんな。
しかも今日は確か松平さんは休暇だったっけ…

バンッ!!―…

俺が呆れていると扉が勢い良く開かれた

「やっぱここに居やがったか」

新選組を従えた土方さんが、瞳孔を全開に立っていて榎本さんは青ざめる。

「何でここがッ…!」

まさか箱館に来て新選組の御用改めが見れるとは思わなかった。

「逃げられると思うな。監察方を嘗めんじゃねぇぞ」

休暇の松平さんの代わりに土方さんが今日は、総裁の近辺警護と言う名目の世話役だったんだ。
ってか脱走した榎本さん探すのに監察方を使ったんかこの人は。

「嫌ぁ〜!にゃんこと遊ぶ〜〜!!」

「あ、源吉を連れてくな」

猫ッ首を捕まれた榎本さんは源吉を抱えたまま引き摺られながらも抵抗している。

「源吉?」

その榎本さんの腕から土方さんが源吉を取り上げ、目線の高さまで持っていく

「土方さん気を付けて!」

「気を付けろだぁ?」

源吾と榎本さんにはなついてっけど、それから考えれば源吉の好みは大体わかる。
その証拠に、瞳孔全開の土方さんに源吉はフシューと威嚇している


「喰われてェのか…」

《に゙ゃ…》

土方さんの一声で源吉は固まった。
そりゃ、あの人にそんな顔で言われちゃ堪んねぇよな、箱館山の熊だって黙るかもしれねぇよ

「放して〜〜!」

「黙れ。手間ァ掛けさせた覚悟は出来てンだろうな」

「磐ちゃん助けてー!」

絶対無理だって。

「邪魔したな」

「いえ…」

榎本さん御臨終。

心の中で俺は合掌した


「残念だったな。お前でも土方さんに勝つのは無理だ」

源吉は不貞腐れた風にソッポを向いた

「お前、可愛くねぇヤツ」

するとまた源吉に引っ掻かれた。

「何やってんの?」

漸く戻ってきた源吾は皿を手に持っている。源吉はすかさず源吾の足に擦り寄った

「待ってたのか?」

「くそッ、源吾と榎本さんには愛想いいよな」

「は?」


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