箱館他CP

□風ノ香ニ漂ウ
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暗い夜の海を眺める。
夜の海はどこまでも暗く、空も水面の境目も無くただ黒い。まるで全て飲み込むように


その中で一つ輝く上弦の月と、俺の指先で灯る小さな煙草の火。

毎夜、船員達が寝静まった頃に俺は独り甲板に立つ。
別に陸が恋しい訳でも無く潮の匂いも厭きたくらいだが、俺は決まって同じ時間、同じ位置で煙草を吹かす


「源吾、冷えるぞ。」

「……。」

来たか。

同じ時間、同じように背後から、海に向かう俺の横にコイツは現れる。

「お前、いつも誰の許可を得て乗って来んだ」

「じゃあ、聞いたら許可してくれるのか?甲賀艦将」

するわけねぇ。と、言葉に表す代わりに、俺は紫煙を前方の闇に吹き付けた。
煙りは辺りの潮の香に混ざり、波風に漂う。


「毎晩ココで、俺を待ってくれてるんじゃねぇの?俺ってひょっとして愛されてる?」

「寝言は寝ながら言え。」

「そんじゃ寝ようぜ。朝まで幾らでも言ってやるよ」

「ド馬鹿。寝るなら自分の船帰って寝ろ」

「ド馬鹿ってお前、酷くね?まだ寝ねぇよ。寧ろ今夜は寝かせねぇよ?」

「下に突き落とすぞ」


俺は、夜、船員達が寝静まった頃に独り甲板に立つ。
別に陸が恋しい訳でも無く潮の匂いも厭きたくらいだが、決まって同じ時間、同じ位置で煙草を吹かす。が

けしてコイツを待っている訳でも、況してやコイツが来るからでは無い。
寝る前のこの時間を日課にする俺に気付いて、コイツが姿を見せるようになっただけのこと。
そして、毎晩のように現れるコイツは鬱陶しい事この上無いが、
だからと言って、コイツの所為で俺が日課を止めるのは何か違うし。
そして俺が日課を止めない限り、毎晩のようにコイツは現れるんだろう。

酒を呑む訳でも何をする訳でも無く、仕事の話や仲間の話しは最低限の程度。
ただ俺は煙草を吸っていて、コイツは馬鹿な事を一人で言って一人で笑ってる


「源吾、一口くれよ」

否応も無しに、俺の指から煙草を取り上げ、
口にくわえて直ぐ、先端の灯が尚更に赤く燃える。

月に雲が掛かると水平線も交じる闇の中で、唯一俺達を照らす小さな灯。
それに灯さて見えるのは、さっきの俺と同じく前方の暗闇に向かって煙りを吐くコイツの横顔。

「ソレ、もういらね」

そうか。と言ってコイツは旨そうにもう一息付いた。
きっと今、俺は口の中までコイツと同じ味になったんだろう…な






「磐吉、キスしろ。」

「おぉ、言われなくても、してやるよ?」

含み笑いで歪む唇が、俺のと重なる。
潮の匂いや、普段のコイツの匂いとも違う
馴染みのある煙草の匂い。

波音も微か遠くに聞こえるような静な海上に、
光はコイツの指先にある煙草の小さな灯が一つ。
昇る煙が潮風に漂う。





「源吾、寒くねぇか?」

「べつに…」

「眠いなら言えよ?」

「お前が帰ったら寝る」

「つれねぇな、部屋入れてくれよ。ってか、寧ろ俺はお前の中に入り、」

「黙らねぇと沈めるぞ。」







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