榎本他CP

□スノーアイス
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アイスクリーム。
それは、紀元は遥か三千年以上の昔と一説もある氷菓子。
欧州ではイタリアのフィレンツェから広まり。メレンゲを主に氷らせたシャーベット状の物から、乳業が盛んなアメリカへ移民により製造法がもたらされ、
牛乳屋で売れ残ったクリームを使用して作る工場が建設し量産品と発展。
10セント以下で手軽に購入が出来る生菓子として大衆から人気を集める。
彼の英国チャールズ1世もこの甘味に魅せられ。レシピを他に広言しないよう氷菓子職人を専属料理人として王宮へ幽閉し。
一生涯遊び暮らせる程の給金を授け、その者を寵愛したと言う。


ただし、それは畜産も技術も発展している海外の話し。
今の我が国を見る限りは、材料の安定した確保は難しく。例えば輸入に頼り生産したとしても高値の売買になる。
未だ、牛乳すら飲む文化の乏しい我が国において商いとするには、その輸入税率を補う程の利益すら到底望めない。
と私の見解を述べてみると、ごもっとも。圭介は頷き同調してくれた

だけども、

カヘルでしっかり温められた部屋で外の雪を尻目に食べる冷たいアイスクリームとは、意外に格別で美味い。
と、最初は素直に喜んだ。
いや、それはホント始めだけで。
次第に身の内側から冷えてきて肌寒く、舌は既に麻痺している。
仄かに甘い。今ではもうそれしか分からなくなってきた。

なんでこう無理をしてまで、しかもこんな最北の雪深い中でアイスクリームを食べなければならないのだろう。
自分でも疑問に思わずにはいられないけど、
これは、圭介が実験例だと自慢気に差し入れてくれた試作品。

カップに入れられたアイスクリームは元から少量だったけど、残りもほんの僅かで。
材料費はけして安くないと知っているだけに、もう少し頑張ってみる事にする。

アイスクリームは間欠に言うと、クリームと砂糖を混ぜて冷やして氷らせた物。
こうして固まるまで冷やすのは並大抵の温度じゃ容易ではなく。
冷やしながら混ぜる工程を当初は人の手で行われていたものの、
それではとても生産数が悪く。技術者たちも頭を悩ませたと聞く。
今ではプロシアで開発された製氷機と、アメリカで開発された手車式の攪拌機でアイスクリーム工場が可動しているとか


着目すべき点は、ベルナルド・ブオンタレンティと言う化学者が発見した、氷に石灰を加えることで-20℃程度まで温度が下がるとの提議。
って、さっき圭介から聞かされた。
今からほんの数十年前に発表されたソレをどうしても試したかったらしい。
自分もよく言われるけど、この男も相当のっぴきならない物好きに分類される。

「塩を混ぜた雪を箱に敷き詰め。そこに材料を入れた容器を埋めて密閉したのを外で暫く転がした」

その箱を転がす作業を土塁の傾斜を利用して本多くんと一緒に暫く外でやってたとか。
ご苦労様だ。そして、立派な副官だと思う。

「ここは外が製氷機の中のようなモノだろ?物を氷らせるには申し分が無い地だ」

「それは分かったけどさ…、誰がこの極寒の中でアイスクリームなんて食べる?夏ならともかく」

「いま食べてるだろ。釜さんが」

コレを食えって持って来た奴が言うことかな…。

「ま、後は沢さんに手紙でレシピ教えてやるんだな。喜ぶんじゃないか?」

そうだ。オランダで出逢ったコレを気に入って腹を冷やすほど食べてた沢さんなら、
猛吹雪の中だろうと喜んで甘くした牛乳の瓶と雪を入れた箱を転がし続けるかもしれない。
ただ、材料を簡単に入手出来るかどうかは知らないけどね。

「一応、教えとくよ」

再びスプーンで一口、救くうアイスクリーム。
温度に負けてトロリとした液状の乳白色は、ポタッと一筋スプーンから雫を垂らした

「あ、」

カップを持っていた手にそれが落ちて、
勿体無い、と思って舐め取ろうとした指に不意に柔い感触。

「け、…すけ?」

予想外な展開と言うか行動に驚かされた。
吸うように離れていった唇の暖かさと柔さにも、不愉快さよりは困惑のほうが大きい。
って言うと変になるけど、
別に、昔はよく一緒に銭湯へ行ったり。食べ掛けの物を平気で分ける事もあるし。そこは馴れてるけど。
ただ、こう女子供にするようなのは、そりゃ驚くさ。
そうして自分が困惑して動けないでいると、スプーンを持っている手が取られ。
アイスが乗っかるスプーンの先が圭介の口に運ばれた


「んー…甘過ぎないか?」

「こんなモノだよ。ってか、自分で味見しないで人に食わせたの?」

「毒見とか言うつもりじゃないぞ。ほら、量が少ないからな」

へらっと笑う圭介。
ふーんと自分も軽く返し。

何故かスプーンごと手が握られたまま、
妙な空気が漂うのは、気のせいかな……?
ふと真っ正面で視線が合うと、


「なぁ、釜さん…」


「ん?」


「ココで口でも吸うてやろうか?」


「冗談。」

「そやな。」

手が離され。自分は、再びまた一口スプーンでアイスを救って口に運ぶ。


「冷たくてそろそろ限界。コレ夏だったら、もっと旨いんだろうね」

「そやなー。いつか夏にも作ってやるよ」

「雪はどうするの。この方法だと冬にしか作れないじゃん。しかも、蝦夷か露国くらい寒い場所じゃないと無理かもね」

「あぁ、それもそうか」

俯き目を閉じて、んー、と少し唸った圭介は顔を上げ


「やっぱり、いつかまた蝦夷の冬で作った時、釜さんがカヘルの前で食うしか無いな」

「えー、ソレ何も解決してないじゃん」





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気紛れで連ねただけのモノです。鳥さん&釜さんは親友以上の親友以外何物でも無い感じが書いてると楽しいです(笑)
そして確か、明治3年か4年には横浜で初のアイス販売が始まりますよね。値段は二千円くらいだった気がする(笑)
更にそして因みに、スノーアイスを小学生の時に授業で作ったの覚えてる。
そしてそして、蝦夷では冬のコタツに入ってストーブ焚いてる部屋でアイス食べるのは結構常識です(笑)



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