榎本他CP
□不毛な僕らが笑う為に
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昔は…と言っても、まだそれほど時は経っていない筈だが
どうにもえらく昔に感じるのは、きっと
環境や価値観の移り変わり、それを把握して必死に理解しようとしてきた月日が余りにも時間が経つ速度より駆け足だった所為なのかもしれない
あの頃は確かに余裕があったとは言えず、僕も彼も必死で無我夢中だったけれども、
それでも素直に笑い合えていた気がする。
少なくとも、僕はそう思っていた
「…なに?どうかした?」
そう振り向いた彼は、あの頃より幾つか精悍な面持ちだが、
その茶色掛かった眼はあの頃と変わらず澄んでいるようだ。
彼本来の本質は今でもそのままなのだろう。
だから周囲も僕も昔と何も変わらず屈託無く接する事は出来るのだけど、
「ねぇ、」
「あぁ、すまない。ちゃんと聞いてるよ」
「疲れてるなら部屋に戻って構わないけど」
「いいや、そう言う訳にはいかないさ。続けよう、総裁」
周囲から絶え間無く注がれる様々な視線の中で、
己が己である為に、
自己を貫く己だけでも味方にしておく為に、
一つの手段として、虚栄を身に付けたらしい。
彼も、僕も。
もしそれが、2人の距離をあの頃より遠ざけているのだとしたら、
それをかなぐり捨てた時、
また本気で笑い合えるのだろうか
あの頃と同様に。
不毛な争いに身を投じる僕らが
だから、
君が海へ行くなら、僕は陸へ。
君が死を選ぶなら、僕は生を。
迷わず僕は決断するだろう。
また共に、笑い合う為に。
終