榎本他CP

□コタツとミカン
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総裁室の片隅に炬燵が配置された。
主の榎本が松平に、

「炬燵とかあったら、きっと執務も捗るんだけどなー。いや絶対に捗るね。もう暖かったらそこから出たく無くなるじゃん?これ良いアイディアだと思わない?」

とか何とか説き伏せ。松平は我が儘を聞き入れたのだ。
そして本当に炬燵を導入し。導入したからには、その有言実行してもらわねば成るまい。
松平は榎本に炬燵でまったり等と言う隙を与えず仕事をさせまくる事にした

「言ったからには良いよ?ちゃんとするよ?だけどさ…」

「コレでもまだ、不平不満がお有りですか?」

「不満は無いけど、眠くなりそう…って言うか眠い」

榎本は無駄口を叩き小さく欠伸しながら炬燵の上に広げた紙へ、ペンを走らせ続けている。
隣で一緒に炬燵で暖まっている松平は、炬燵の雰囲気を盛り立てよう!と榎本の要望をこれまた聞いてやり用意した蜜柑を剥いている

「休んでも良いですよ。ただし休憩するなら炬燵から出て下さいね」

「えー」

「あくまでも、この炬燵は仕事の効率を上げる為だけに使用する約束でしょう?」

ブツブツと文句が止まらなくなった榎本だが、それでも手だけはしっかり動き続けているから器用だ。
今の念押しが効いたのか、炬燵から出るくらいなら休む事を諦めたらしい。
また少し集中し始める。
松平は、白い筋も薄い皮も丁寧に全て剥がした蜜柑を皿に並べ。
榎本が書き込む紙の横に置いた

「ホラ、せっかく用意した蜜柑を食べるくらいなら手を休めて構いませんよ」

「ん。あー…」

と、
榎本は今まで書いていた紙を読み返す作業に移り。
視線を紙に向けたまま口をぽっかり開け始めて、松平は瞬時に反応出来なかった

口に入れてくれと言う指示は直ぐに分かったが、
そんな滑稽とも言える行為を素直にすんなり出来るほど、松平は滑稽な性格では無い。
ただしおそらく榎本の事だから、書類に触る手を蜜柑の汁で汚したく無いだけだ。と松平は思った。
それ以外の深い意味も無ければ、それ以上の意味も無いだろう。

普通ならここでフォークを一本持って来てやるべきかもしれないが、
本人はずっと餌をねだる雛鳥の如く口を開けて待っているままで。
この場で榎本の思考回路が、蜜柑を食べるのにフォークを使うより松平に食べさせて貰う。と言うように形成されている為、
フォークを取りに行くとか気取る必要は無い。と松平は結論を出し。

橙色の果実を一つ皿から摘まみ榎本の口に入れた。

「甘いですか?」

「ん〜…」

真剣な様子で目で紙の文字を辿り続けるまま頬をモグモグさせた直後、
酸っぱっ!と詰まった声をあげた

「ゔ〜、酸っぱいんだけどコレ!」

「え?」

口を尖らせて目を堅く綴じ。書類も手放して、肩をすぼめている

「食べてみなよ!尋常じゃなく酸っぱいっ!」

「嫌ですよ。酸っぱいなら要りません。眠気覚ましには丁度良かったんでは?」

「ワザとに酸っぱいの食わせた?」

「そんな事、出来るわけ無いでしょう。偶然です」

炬燵の卓に散らばる紙と一緒にある蜜柑は鉢に山盛りされていて、
松平はその上にあるのを、たまたま手に取っただけ。
笑うと恨みがましく睨まれたが、その榎本の目は軽く涙が滲んでいる。
うーとか、あーとか、変な声を出し。コーヒーで口直しまでした

「蜜柑のせいで背中の方が余計に寒くなった」

背筋をブルッと大袈裟に震わせ、紙が散らばる上に突っ伏し背中を丸める。
そこから松平を見上げ

「タロさん。背中」

とだけ一言、改めて言う。

その意思表示の意味も松平は難無く読み取った。
そしてコレは、
炬燵布団が無い背中が寒い。と言う言葉通り以外の、深い意味も含まれ。
それ以上の意味も有る。
紙を触る手を蜜柑の汁で汚さない為に食べさせて欲しいとか、そこまで意義がある事では無いけれど、
2人の間だけには、少なからず確かな意義のある事だ

仕方無い人だ。と小さく微笑んで、どうぞ。と言うと
榎本は横の松平が座る所へ移動し。長い脚を炬燵の中で折り込み組む胡座の上に乗っかった。
これも随分と滑稽な様だろうと思うが、結局直ぐに許しているし。
炬燵の暖かさとはまた別の暖かさで胸が一杯になる自分に、松平は苦笑が止まらなくなってしまった。

榎本は満足したようで早々と紙類を自分の前に手繰り寄せ。
万年筆を器用に指先でクルクル回しながら再び仕事を進めようとしている

「タロさん、蜜柑食べる」

また一つ要望が出された。
松平は直ぐに聞き入れ。
剥いた酸っぱい蜜柑では無く、新たな蜜柑を用意しようと鉢に手を伸ばすが、
その手を万年筆でツンと、小突かれ止められた

「ソレで良いよ。せっかく剥いてくれたんだからさ」

「そうですか?」

早く早く。と口を開けて、凭れる肩口で待っているのが可笑しくて
クツクツ喉を鳴らしながら松平は剥いてある蜜柑を一つ放り込んでやった。
やっぱり酸っぱそうに喚きながら、榎本は肩をすぼめ猫背で書き物を続ける。
だから、背中を丸めて炬燵に向かう榎本と、普通に座っている松平の胸板と隙間が開いてしまった。
それを無くすため、松平も前屈姿勢になり。
ぴったり榎本の年相応の男より薄い背中に張り付き。肩に顎を乗せた

榎本は少し驚いて松平の顔を見る。その拍子に、髪が頬に触れた。

「こうしないと私が寒いんですよ。これ以上の邪魔はしないんで続けて下さい」

「これ以上の邪魔って…?」

「さぁ…?答えは、それを片付けてから」

悪戯っぽく笑う榎本に、
松平も思わせ振りに笑う。
笑い合いながら松平は炬燵の中で榎本を抱えるよう腕を回した。
体重は掛けていないがのし掛かる体勢に、擽ったそうに榎本は少し身動き。
背中を松平に好きにさせたまま動かす手は止めない。
その時、部屋の扉が二回ノックされた


「あー寒い!寒いなー!」

ノックしたのは形式的だけで返事を聞かずして、派手に騒ぎながら大鳥が入って来た。
そして、その背後には荒井とブリュネも一緒だ

「釜さん、炬燵入れたって聞いたから肖りに来たよ。ってか、アンタら何やその体勢…」

「入ってても背中が寒いんだもん。こうすりゃ暖かいじゃん」

まったく動じる事をしない榎本。ふ〜ん。と、すんなり納得するのが大鳥だ。
そして炬燵の定員より1人多いため、そのまま座ってな。と笑い大鳥は向かえに座り。炬燵に興味津々なブリュネも入り込む。

「コーヒー淹れますね」

荒井は茶器の支度を始めた

「いやー、ホント今日も雪よく降るよなー。釜さん、蜜柑ちょうだい」

「これ酸っぱいよ」

榎本の言葉など聞く耳を持たずして大鳥は蜜柑を早々と剥いてゆく。
一気に賑やかになった部屋で(大鳥と榎本が揃うから賑かだが)若干惜しい気がするのは否めず。
松平は見えない炬燵布団の中で、本人も気にしている様子では無いから榎本に回す腕を解く事はしなかった



「コタツにI'orangeは日本の鉄則ね。ブリュネさん」

「Oui!」

「釜さんまたそんなこと教えて…。この蜜柑なんも酸っぱくないぞ?」

「ホント?」

「釜さんが食ったのハズレだな」

食ってみ?と、一房。白い筋を適当に取ってあるだけの蜜柑を大鳥は榎本に差し出す。
そこで松平は、榎本がそのまま大鳥の手から食べる事を予測し。
少々、若干、俄に、煮え切らない思いが過ったが、
そんな予測と反して榎本はそれを手で受け取って口に入れた

「ん、甘い」

「だろ?そっちのそんなに酸っぱいのか?」

「コレはダメ。タロさんと私のだから」

ね?と話を振られて、
とても子供染みた事だと百も承知だが、松平は笑って頷いておいた

「釜さん、手、拭いて」

ハンカチを取り出して手渡す。榎本はお礼を言って、また大鳥達と他愛ない会話に夢中になっていった


松平は酸っぱいと榎本が言い張る剥いた蜜柑を一つ摘んだ。
そんなに酸っぱいのか多少気になったし。悲鳴をあげるとは余程のモノだろう。
まぁ例え酸っぱくても榎本と違い、蜜柑を食べて悲鳴をあげる柄でも無いが、


一口かじると、それは確かに少し酸味が強いほうだが、やはり騒ぐ事でも無く。
甘酸っぱい。と言う言葉が妥当だと思った







随分と甘い話しになってしまいました。と言うか、総裁を甘やかすタロさんが甘い(笑)タロさんのクセに←?
純粋に総裁に尽くすタロさん。腹の中はどうか分かりませんが(笑)そっちの話もいずれ書いてみたいですw

ライカ様、かなりお待たせ致しました!そしてリクエスト有り難うございます!!


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