榎本他CP

□If you choose
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「だって、仕方ないよね、好きになったんだから」

そういって彼は、到底そうとは見えない尊大な態度でこちらを睨め上げた。

「……はい?」

寝耳に水とはこのことだろうか。
彼の有名な和魂の男である貴公子も、今は得意のポーカーフェイスをすっかり崩し、呆けた面を晒している。
それが本来の彼の表情でもあることは、今その眼下にいる総裁もまだ知らないことだ。

「だーかーらー」

「いや、分かりました。分かりましたが、総裁…その好きとやらは、どの種類のもので?」

「は?種類?」

腕を組み、愚問を聞いたとばかりの表情で視線を寄越す総裁に、副総裁の口許が苦く歪む。
告げたのは、持って当然の疑問ではなかったろうか。
男色に興味はないから始まり、好奇心で追ってきてくれていたのは知っている。
けれど、そんな彼に恋をしたのは副総裁の方だ。
ひとつ言い置いておきたいのは、彼の外見に引かれたのではない。如何様な状況に於ても尚、強さや輝きを決して霞ませず失わない彼の内面に魅かれてしまった。
性別も、今では立場も飛び越えて、彼は彼を好きになってしまった。
こちらの「好き」はすでに一度伝えていたが、その時に同じものは返せないと言われている。
そんなやりとりをしたのは、1週間ほど前だった。
それがどうだ。
今夜、久々に二人で一献と誘われ張り切って来てみれば、相も変わらず酒豪な愛しの総裁から、挨拶もないままに告げられたのだ。
鳩が豆鉄砲を、なんていうのはこういうことだろうと、冷静さを無理矢理持とうとする中で副総裁は思った

「そんなものに種類なんてある?」

「ありますよ。貴方に解りやすく言えば、LoveとLikeは違うでしょう?」

言わば極論を例題に差し出せば、うーだかんーだか分からないような唸り声を口の中で響かせながら、
顎に片手を添え斜め上を見上げる彼特有の思考のポーズに入った。
そんなに悩むような問題を提示したつもりはない副総裁にとっては、些かいたたまれない時間がチクタクと刻まれていく。
そもそも彼の中で答えが出たから今夜こうして自分に気持ちを伝えに来てくれたのではなかったのだろうか。
副総裁は思う。それが自分と同じ「好き」だからこそ、言いに来てくれたのでは?
違ったのだとしたら、ただこちらの心を悪戯にかき乱しに来ただけではないか。
なんというテロリストだ。もしそうなら、テロは大成功、少しなりとも期待してしまった分こちらの被害は甚大だ。

「種類、ねぇ」

「そんなに悩むようなもんですか」

「そういうタロさんのは、どう言う意味?」

「……前にもお伝えしたと思いますけど、私のは恋愛感情でいうところの、ですよ」

好きと言葉に出来なかったのは、副総裁の中で何か引っ掛かるものがあったせいかもしれない。
いや気持ちはあの時と何も変わっていない。寧ろ想う気持ちは天井知らず、これ以上があるのかと言うほどこの男を好きで好きでたまらない。
純粋に彼の支えになるという立場としては一線を越えるのは余計なことだとは思うけれど、とっくに心を捕らえられていた。

「恋愛感情…例えば、キスしたいとか?」

「っ……し、たい、ですよ?」

「ふぅん…」

どもってしまったことに多少どころではなく焦りは感じたけれど、彼の方はさして気にした様子もなく、相変わらずのポーズで宙を見やっている。
本当に、こちらに興味があるのかないのか計りかねる。
そうこちらがが思っていたのを見計らったように漸く澄んだ茶色い瞳がかちりとこちらへ照準を合わせた。
一瞬、本当に一瞬だけれども、副総裁がぎくりとしたのは気付かないでいて欲しいところだ。


「なら、してみれば?」

「はい?」

「それで私が嫌じゃなかったら、君と同じ種類のものなんだろう、と思う」

告げた柔らかそうな頬が、この上なく朱色に染まっている。
なんてことだろう。
このテロリスト、困ったほどに確信犯だ。







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