榎本他CP

□surface kindness
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夜の帳も降りた頃、とある部屋は洋燈一つの明るさで、その中に囁くような声が響く。


「んぅ…ふっ…っ…」

榎本は苦しそうに呼吸を繰り返しながら黒田から与えられる快感に耐えていた。
寝台の上で寝転がる榎本に黒田が覆い被さり、互いの四股は蛇の群のよう絡み合っている。

「榎本さぁ、声、聞かせてくいや」

「やっ…」

「そげに唇噛んどっだら切れもす」

「いや…だ…!」

「強情じゃのぉ…」

黒田は苦笑を溢し溜め息を吐きつつ、組み敷いた榎本の敏感な部分をぐいっと突き上げる。
たちまち口を開いた榎本から嬌声が上がった。

「ぅあっん、りょ、すけ」

「あい…やっと名前呼んでくれもしたな」

黒田は満足気に笑った。

「う…は、あっ、やッ」

敏感な部分を攻められ、びくっと体を竦ませて黒田の背に爪を立てる。
強い快楽が過ぎ去った後、申し訳なさげに手をそっと背に滑らせ、首に巻き付け、頭を抱き込もうとして、一瞬固まる。


「榎本さぁ?」

「…ごめん、」

何を謝られたのか、黒田は理解したのだろう。
呆れた溜め息をついた。

「…無粋じゃ。繋がってる最中に謝るんか。だいたい榎本さぁが謝る必要なか。これは、オイが勝手にしたこつじゃ」

その言葉に榎本は納得出来ない様な顔をした。
それを見て黒田はもう一つ溜め息。
息を吐き出しながら榎本の腕を掴み、その掌を自分の頬に当てた。
指先が短い髪質を確めるように躊躇いがちに触れる。
それが命乞いをしなかった榎本に代わり、黒田が自分の命を引き換えに出し榎本の命を乞うた証し。
時に不意打ちの様に触れてしまうと、あの戦の記憶が鮮明に蘇ってしまうのだ。
いや、忘れたことなど一瞬たりともないが。
黒田にもそれは分かっている。何もこんな時に思い出さなくてもいいのにと思わない訳じゃないが、
思い出してもいいのだ。思い出すだけなら。
ただ、それで目の前の自分から目を逸らすのはやめてほしい。
榎本の目は今、あの戦に…あの男に向けられている。想いが未だに向けられているのだ。黒田はそれが腹立たしい。
今の謝罪も、命を救った己の行動に対してではなくて、自分とこうして居る事に対しての罪意識かと思わずにはいられない。

「ごめん…」

「榎本さぁ、それ以上言うなら手加減しもはん」

「っ、」

乱暴に突き上げれば榎本は悲鳴のような嬌声を上げる。顔が歪み、汗か涙か頬から雫が幾つか飛び散った。

「今は、オイだけ見るんじゃ」

そのまま激しく闇雲に律動する。
何も考えさせないように。何も言わせないように、何も聞かされないように。

「榎本さぁ、っ、」

黒田は何度も榎本の名を呼び手を握った。指を指と指の間に入れて、ほどけないようしっかりと。

「今ここに、榎本さぁの側にいるのはオイじゃ」

「あっ、ああっ…りょ、介…?」

「放しもはん。だからオイを…今ここにいるオイを見てくいや」

「っ!はあっ、あっ…り、すけ…りょ、了介…っ」

「オイが側に居もす」

"離れない"そう繰り返す黒田の声が脳髄に響き渡る。
その中で思い出す。あの戦で共に戦い、失った男を。
最後まで戦う事を望み続け、そして死んで逝った男を。その男を殺めた男の、腕の中で。

失ったものはあまりに多く。失わなかったものに安堵するも、消えぬ棘がいつも榎本の胸に突き刺さる。

「榎本さぁ」
『榎本さん』

けして重なる事は無い筈の、けして重ねてはいけない筈の、黒田の声と男の声が重なる。
自分を呼ぶその2つの声は、どちらとも優しい。
男を失ったのが、共に逝けなかったのが、哀しいのか悔しいのか。
それとも黒田と今ここにこうして居れるのが、良かったのか切ないのか。
そのどれでもある様な複雑な思いを抱えながら、榎本は涙を一雫流した。


「ひ、じ…───…」


無意識に呟いた名を確かに聞き取った黒田が、目の奥を残忍なほど鈍く光らせているのを、榎本の霞んだ瞳は映さなかった。








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恋愛ごっこの序章みたいなものです。書き順間違えた(笑)
最中に別な人を呼んじゃうとか、そりゃ了介も怒る。




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