榎本他CP

□玉兎銀蟾
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彼はまるで、死体のように静かに床に寝転がっていた

「どうしました?」

そう言って暗い部屋に入っていくが、彼は振り返りも態勢を変えようともしなかった。
自分に丸まった背中を向けて窓の外の方をじっと見ていた。
その顔が見える位置まで寄り上から見下ろせば、目は虚ろで、何を映しているのかは分からなかった。
そしてか細い声で自分の名前を呼んだ。

「タロさん、」

「はい」

「タロさん、疲れた」

「そう」

「うん」

静かに喋る姿はどうも見慣れなかった。まるで、違う人間に思えた。
しゃがんで、髪に触れる。彼はぴくりとも反応しない


「寝るといいですよ」

「それは、やだ」

こわい、と呟いて彼は眉を寄せ初めて自分の方に顔を向けた。
その表情は本当にひ弱で、壊れてしまいそうだった。
ああ。この男はこんなにも弱い人間だったのか。





「ひ、あぁ…」

彼は目元をきらきら濡らして泣いた。突けば猫のように鳴いた。
よくも自分はこんな壊れてしまいそうな人間を犯しているもんだ。
彼は情けない顔で名前を呼ぶ。

「タロさん」

白く細い腕が伸びて、首に回される。

「タロさぁ…」

彼は頭を自分の肩へと埋めた。喘ぎながら啜り泣く。
彼は何度も名前を呼んだ。それに相槌だけを打つ。
なんでこんな事をしているのだろうか。彼は、確かに病んでいる。

「タロさん」

「…はい」

抱き締める力が強くなった。壊れてしまうならいっそ自分の腕の中で壊れてしまえばいい。

空の暗闇に、月は白い。









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