榎本他CP

□あの頃は見るものすべてが敵だった
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「だーかーらー、ここが、こう。あぁアカン、釜さんまたスペル間違ぉとるで。ほらココ」

「もういいっ!もうヤだ!面倒、疲れた。圭介やって、全部やって」

足を文机の下でバタバタさせたら頭を指南書でパコンと、一つひっぱたかれた。痛い。
あぁ、今の衝撃でまた頭の中の単語が幾つかどっかに吹っ飛んだ気がする。

「宿題は自分でせんと意味無いっちゅーねん」

「ハラタツっ…。なんで?なんで同じ塾行って、同じ時間、同じ物を勉強してんのに差がつくの?こんなの不公平じゃん」

「は?差ってもんじゃ無いだろ。ただ、釜さんが宿題片すの遅いだけや」

うるせぇベランメェ。舌をベってしたら、圭介は溜め息を吐いて、うんざり顔をした。

「しいて言うなら。講義中に全く関係無い数式解いとるわ、図式見とるわ、読書しとるヤツは遅れるだろ。自然の摂理だな」

「自分だって設計図とか何か変なの見てるクセに…」

「変いうな!釜さんだけには言われとうないしっ」

ああー、あつーと呟いて、圭介は少し開けてる襖の前を独占した。
私に風が届かないじゃん。ずるい。前髪が風に靡いてる。ずるい。
自分だけさっさと宿題終わらせて余裕綽々しちゃって。ずるいったらない。

「あー!もうヤだ。蘭も英も仏も米もどこもかしこもなんで言葉違うの。全世界一種類でよくない?一つに統一したらいいよね。もう日本語でいいよね」

「まぁ例え統一されたところで、こんな小っさい国の言葉が地球の裏側まで浸透するとは思えんけどなー」

「風が来ないー」

「喚く前に真面目に早くそれ書け。終わったら退いてやるから」

「ケチ」

書き損じた紙を握り潰して丸めてぶつけても、圭介の背中はびくとも動かなかった。
コンチキショー。偉そうに。自分がとっくに終わってるからってさ。
あーあ、ヨカッタデスネー。せいぜい今のうちに差を付けとけばいいよ。
私は大器晩成なんだから。やれば出来る子なんだから。母上がいつもそう言ってんだから間違いないもんね

別に、洋語が、勉強が嫌な訳じゃなくて。なんかヤル気が出ない。気分が乗らない、みたいな。
今日はなんだかそんな日なだけ。
圭介にどやされながら勉強させられている感じも何か面白くないだけ。
まぁ、家まで来てもらっているのだけれど。
腹立ち紛れに、隠してた飴玉を口に放りこんだ。甘い鼈甲飴。うん、蕩けて美味い。
すると圭介が振り向いて、咎める目をした。

「なんか食ったろ」

「食ったよー。ほら」

べえっと舌を出してやったら、圭介の眉がヒクッとした。ヤバい。キレるかも。



「…なぁ、うちの爺ちゃんが言ってたんやけど」

「…え、なに?」

殴られると思って帳面で頭をガードしていたのを恐る恐る退けた。
圭介が畳みに這いつくばって近づいてくる。顔が若干コワイ。

「男は、自分の行動に責任を持たなきゃならんてな」

「は?」

だからなに?
だから自分で學ぶって決めたモノは、進むって決めたなら、しっかりやれと…?



「しっかりせな、な」

直ぐ近くにきた唇がそう囁いたような気がした次の瞬間に、圭介に食われた。と思った。
うわって、反射的に目を瞑ってしまった。
そして噛んでいなかった飴玉が、なんかぬめっとした物に取られた、と思ったら、次はまた舌の上にコロンと返ってきて。
固い物がカチッと当たった。歯?歯なの?歯なのかな??って、ナニコレ。
エエー!?ナニコレっ!?ここここれはなに?!キス?!コレがキスぅ?!
エエーッ?なんで?なんで圭介と自分がチュウしてんの?!
あ、前髪が目蓋に刺さった、痛い。


「あ、奪ってやろうと思ったのに失敗した」

圭介が、ふてぶてしい声を出して、愕然とした。
信じられない…。と思ったけど、目の前ではそっぽを向く圭介。
今の出来事は本当に自分の身に起こった事らしくて。

え、なに?コイツなんなの。チュウしたよ。いま訳も分からないけど間違いなくチュウされた。
しかも勝手にチュウしといて、その挙げ句にいま失敗って言った?
私、ヒガイシャデスヨネ?キレテモイイデスカ?




ブチッ、て、どこかが派手に切れた。




「何が失敗だってェ?!って言うか何してんのっ!?圭介のクセに!ははは、はは初めてだったのにぃーっ!!返せーっ!初めてを返せコンチキショーーっ!絶対最初は美人な白人ガールって決めてたのにぃー!」


「五月蝿いわよ釜次郎!騒いでいないでちゃんと宿題済ませたのかしら?どうぞ麦茶を」

「ああ、これは御らく殿、どうも頂きま、」

「飲んでんじゃねェエっ!!今すぐ出てけっ!とっとと帰ェれバカヤローっ!」

「コラ!なんて事を言うのですか。申し訳ありません大鳥さん。ホントに昔から口の悪い弟で」

「いや、俺もなんか悪かったみたいで。そんな、まさか初めてとは思いもせん」

「ウルセェェエエーー!!うわぁあーーんっ!!!」




その夜、部屋の壁に穴を開けたら親父に拳骨をくらい、姉さんは「やだやだ反抗期かしら」と言い。
母上は晩飯を好物にしてくれた。そしてそれを「食べなさい」って自分の分まで兄上は分けてくれた。



チクショウ…こうなったら西洋化しようかな。もう髪の毛切ってやろうかな。
クラスに必ず一人いるあの夏休み明けにすっかり変身して不良になっちゃいましたパターンで、
洋服着て登校してやろうかなと思いました。





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英朧塾時代の2人を書いてみたくて。勢い余って釜さんファーストチッス喪失。(え)
最後に出てきた人はお姉さんです。パパ上と一緒に釜さんの教育に心血を注ぐ姉上です。
どうでもいいですが、兄上はきっとお母さん似で釜さんは父親似だと思います。どうでもいいですが




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