土方受箱novel

□慷慨トッカータ
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どうも気が引ける。
僕は男だが同じ男を好きになって、好きになったら、
もう男とか女とか関係ないだろうと思ってるが、彼は、そうじゃないらしい。

いやいや俺は、そのアンタの…アレだし、まぁなんだ、その、アレだぞ…?嫌いじゃねぇし……アレだが、盛るのはやめような。ちょっとまだそこまで割り切ってないと言うか…いや勘違いすンなよ!アレだから!
と、盛った時に言われた。
言われたんだ、土方くんに。

それはもう甘酸っぱくなんか無く、苦い思い出でしかない。
なんか傷付いたと言うか、恥ずかしいと言うかそんな感じで、
まぁその後、彼はこれでもかと言うくらいにキスは許してくれたから傷は大したもんじゃないが。
とにかく、土方くんはキスはしても、それ以上の進展を拒んでいたわけだ。
ここは押し倒すしかないだろう!という場面も得意の器用さでスラリと交わしてみせた。
それなのに、どうも気が引ける。

「ヤろうぜ!」

異様なテンションで言われたその言葉が、頭から離れない。
あの土方くんだぞ。あの、土方くんがそんなことを言うはずがないだろう。
いや、現に言っているが、それでも言うはずがないんだ。
戸惑っている僕の首に腕を絡めて、なぁなぁと擦り寄ってくる。
妙に火照った顔はああもう勘弁してくれって感じだ。手をぐっと握って堪える。
そうだ、彼がこんなことを言うはずがない。

「よくもまぁ呑んだな…」

「おぅ、」

「おう、じゃない」

まったく。
土方くんがヤりたくない事を、僕は知ってる。
土方くんが酔っ払った勢いで何か仕出かして失敗するタチだってのも分かった。
だから誘って来ても、僕はそれこそスラリとかわさなければならない。
今更ながら開きすぎている胸元がなんか気になっても、かわさなければならない。
って言うかなんで膨らみも谷間も何もない平らなものだと分かっているのに気になっているのだろうか僕は


「男に欲情してたまるか」

「この間盛ったくせに」

「違う、状況が違うだろ」

くそう、気が引ける。
こんな雰囲気でヤってはいけない。
取り敢えずこの酔っ払いを寝かさなければ。
このまま誘われてちゃ僕の理性がプチンと切れるのも時間の問題だ。
くっついて離れてくれない彼をズルズル引っ張りベットへ連れて行く。
寝るように言うと、ヤる気になったかよー。と、いちいちキスをしてくる。
ああもう勘弁してくれ。

「ヤらない」

「なんで」

「なんでも」

「遠慮はいらねぇよ?」

「はいはい」

無理矢理布団の上に寝かせる。最後まで首に絡みついてた腕を剥がす。
そうそう、これでいい。
いいんだ圭介。キープイン理性。

「じゃあ帰るから」

「はいよ、りょーかーい」

ひらひら手を振る土方くんを一瞥してから、部屋から出てドアノブに手をかける。
何事も起こさなかった自分を褒め称え、息をついた。


「優しいな、アンタ。」

そういうとこ、好きだぜ。
ドアを閉じる直前、そう確かに聞こえた彼の言葉に、
ああ誘いに乗らなくて良かったと心の底から思った。
だって、それこそ気が引けるじゃないか。







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