土方受novel

□実録・新選組二十四時!A
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屯所にある風呂はいつ何時でも入れるよう管理されている。それは新選組が二十四時間体制で起動している為だ。
ただ大半の隊士は夜勤で無い限りは、夕食を済ませた後は各々が自由に過ごし、入浴を済ませ、適度な時刻になれば就寝する。
しかし、土方は違った。
会合でも無ければ夕食を済ませた後は部屋に籠り執務に専念し。
寝るのも、大好きな風呂も、どうしても後回しになってしまい。入浴などは夜更けに成ることが多い。
だから尚の事、夜更けに隊士達は風呂場に近付く事すらほぼ無いに等しい。

いや、確かにこの屯所には、あわよくば土方に近付きたい不届き者がそれはそれは大勢いる。
土方自身は、己は羅刹だ鬼だと恐れられ隊士達からは嫌われていても好まれていなくて当然だとも思っているだろうが、それは単なる誤解である。
誰一人として抜け駆け出来ぬよう、隊内で紳士協定が結ばれているだけだ。
誰もが皆、思いを告げる等はもっての他、軽々しく無闇に接触したりもしない。
何しろこの協定を締結させているのは、この京の都を、この国を震撼させている人斬り集団の中に於いても手練れ中の手練れた猛者達である。
土方が着替えている間や、入浴中などは、沖田や斎藤を始めとした者が、代わる代わる必ず見張っている。近付こうにも、けして近付く事が出来ない。
そして、そんな怖れ多い輩もこの新選組には存在しない。ある意味では局中法度より重んじられているその結束を命を棄てる覚悟で破るより、命有る限り土方に尽くしていた方が賢明だろうからだ。



しかし、何事にも例外と言うモノがある。
その日、土方は珍しく執務が捗り。未だ皆が寝静まるような時刻でも無い時、
たまには早く風呂を済ませ寝てしまおう。と、
一服を終えて着替えを手に廊下に出た所で、
それを目敏くも見咎めたのは藤堂であった。

「えっ、土方さん!ひょっとしてこれから風呂!?」

血相を変え飛んできた藤堂に土方の方が狼狽えた。

「ぉう…、今日は早めに片付いたからよ。久々にゆっくり入ろうと…」

応えた瞬間、ガシッと藤堂が肩を掴んだ。
その顔は真剣で軽く眼が血走っているように見えた。
何がいけないのか、土方は困惑する。


「分かった!ちょっと待ってて。今入ってる連中追い出すから」

「なんでだよ。別に一緒でも構わねぇだろうが」

「いやいや構うからっ!!駄目だってっ!風呂場を血で汚すつもり!?」

悲鳴にも似た声を出す藤堂に、つい土方の額がヒクッと一つ動いた。
それを見た藤堂。あ、と思った時既に、

「いくら俺でも、風呂場で腹なんざ切らせねぇよ」

そう一言返して藤堂の制止を振り切る土方。

「違う!ごめん土方さん!そうじゃ無いんだって!!あぁあホラ、ゆっくり入るなら一人の方がいいんじゃない?ね?そうだよね」

「うるせぇ、邪魔だ!」

何とか食い止めるべく縋る藤堂だが、足を進める土方の顔には、何がなんでも入ってやらァ!と書いてある

こうなると土方を制止する事など出来ようも無い。
藤堂は悟った。
きっと土方は誤解している。風呂も一緒に入られ無いほど避けられているのか。と、
そんな見当違いな疎外感を味わわせていて良いのか、藤堂は悩む所だが、
本人に真相など言える筈も無い。
藤堂が試衛館に転がり込んだ時、酒の席だったか何かの拍子に聞いたのだ。
土方は幼少の過去に男に言い寄られ、それから男色はトラウマに成っていると言う事を。
だから、真相を話した時に土方はどう思うのかとても怖くて言い出せないのだ。
いや、もう幼少では無いし。いい加減に真相を全て話して、自分で保身してもらった方が安全のような気もしなくは無いが。

藤堂が土方の後ろ姿を泣く泣く見送っていると、


「戸板でも、用意した方がいいんじゃないか?」

背後から気配も無く不意に聞こえてきた至極落ち着いた冷静な声に、
藤堂は心より感嘆を吐き出した。

「見てたなら止めてくれよ。ハジメちゃん…」

「こんな機会そうそうに無いだろう?アンタみたいにお人好しじゃないからな、俺は見過ごす気は無い」


そう言う斎藤の手にはしっかり着替えが抱き込まれてあった。

「ハジメちゃん、さっき君は風呂に入ってた気がするんだけどな…?」

「出来る事なら一刻毎にも風呂に入りたいほど、俺は潔癖なんだ。文句あるか」

「お前なんか風呂に入り過ぎてふやけてろっ!!茹で上がっちまえ!!」

藤堂には、殆ど平時と変わらないと言えどどこか嬉々として浴室へ向かう斎藤の背に、
ありったけの罵声を浴びせながら、見送る他は無かった。





そして、藤堂が戸板を持って風呂場に向かうと案の定、
なにも土方が腹を切らせた訳でも無いが、確かに土方のお陰で、浴槽は真っ赤な血の池に変わっていた。
そして、運が悪いのか寧ろ良かったのか、居合わせた隊士達がそれはもう長く伸びた鼻の下を血で染めながら横たわっていて、

その奥で、逆上せたのか?と首を傾げる土方の背中を、知りません。と素知らぬ顔で返しながら至極楽し気に流している斎藤が居た。



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琉生サマから頂いたリクエストで第二弾の
良いとこ取りは斎藤さんバージョンでした。被害者の藤堂さん付きです。
新選組に…いや、主に幹部内で箱入りにされている副長とか、オイシイと改めて思いながら書かせてもらいました。

こんな感じで6万もの御訪問に恩返し出来ているのか、とてつも無く不安ですが。気持ちだけは込めさせて頂きました!



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