土方受novel

□実録・新選組二十四時!@
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春、到来。
その桜が芽吹く暖かい季節に日本人は…
いや、四季折々の全てが艶やで美しい国に生まれた日本人だからこそ、
桜を愛でる花見と言う習慣が大切にされている。
それが例えば、国を揺るがすような未曾有の大事に置かれた江戸の末期も例外では無く。
日夜、その限りある命を刃に賭け、文字通り命懸けで働く新選組も例外では無い

ただ、それを鬼の副長こと土方歳三はそう容易く許可する筈もなく。
花見云々と浮かれるべきでは無い。と叱咤。
それ故に尚更のこと隊士達から不平不満を受け。鬼と言われていたが、
それは、この日の午前中までだった。
(隊士達を哀れんだのか、鬼と言われている土方を悲しんだかは謎だが)見兼ねた近藤が、土方に、
日夜命懸けで生きているからこそ、自分達は楽しめる時にめい一杯楽しむべきでは無いのか。と掛け合った。
そして、桜の一つも愛でる余裕も無い侍は野暮だ。と言うモノだから流石に土方も渋々ながら折れ。
新選組で花見と成った次第である。

その日、新選組屯所の近場にある一本の満開の桜木の真下を陣取り。
座敷の上に重箱を広げ。酒樽を積み上げ。
女っ気が一切無いと言うだけで、そこは立派な宴会場だ。


「どーすンだよ。コレじゃ屯所に誰も居ねぇと言ってるようなもんじゃねぇか」

沢庵は重箱に入れると臭いが移るので、土方専用に用意された中身がほぼ沢庵の弁当を摘まみながら、土方はぼやいた。

「まぁそう言うなよ。息抜き出来ていーじゃねぇか。本当は、お前もこう言うの好きなくせにー」

既に微酔いで上機嫌な近藤が肩をバシバシ叩き。土方は露骨に柳眉を吊り上げ、うるせぇ。と一言で振り払った。
しかし相手は酔っ払い。
近藤はハハハと自慢の大口で笑いながら、隊士の輪に加わって行った。
その背中を見て、土方の身の根底から一息溢れる。
土方が懸念しているのは、隊服も着て居なければ隊旗も掲げていないと言えど、こうも新選組があから様に息抜きしていていいのだろうかと言う事だ。
そして、酒がさほど強くない近藤こそが身内のみの席で無礼講とくれば筆頭になって羽目を外すのだ。平気で吐くまで飲み続けるのだ。
因みに、輪の中心に居る奴が幾人か既に腹躍りに入っているのも伺える。
現在進行形で、泣く子も黙らせる新選組の実態がどんどん世間に露見し続けているのだ。


マジで、勘弁してくれ。

土方は一人心中でほとほと嘆き。再び盛大な感嘆を吐き出した。

「土方さん、そんな溜め息ついたら桜に失礼ですよー。こんなにも綺麗に咲いてくれてるのに」

徳利を片手に擦り寄って来た沖田。腰元には当然、脇差しだけを差している。
普段から賑やかな沖田だが、ベッタリ真横にひっ付いて来てケラケラ気楽に笑っていて、
新選組一の手練れがコレじゃ駄目だ。と頭痛を発症し始めて、再三の溜め息が出てしまう

「桜に失礼なのはどっちだよ。花なんざクソも見てねぇアイツらだろ。男の腹を見て何が面白いってンだ」

「でも、花より団子って言うし。楽しめばそれで懸命に咲いている桜も、本望でしょう?」

ね?と言って、
だから土方も楽しむべきだ。とでも杯を差し出した


「ほら、一献どーぞ」

苦虫を酒で流し込むが如く土方は猪口を取った。
喉に流すと再び沖田が徳利をそこに傾けてくる。

ここで、人一倍、近藤より遥かに下戸である土方は、ソレを突っぱねるのが普段通りなのだが、
この時ばかりは、苛立っていた。と言うか、むしゃくしゃしていた為に、ほんの細やかな沖田の軽口に対しても、少しの意地が手伝い自棄に成って、
沖田の手から徳利を引ったくり、一気に仰いだ。
のが、やはりマズかった。

実は半分以上の酒が入っていたその徳利。
途端に、カッと耳まで真っ赤に土方の顔が染まり。
口端から溢れたのをグイッと腕で乱暴に拭い。沖田へ空になった徳利を突き返した時既に、
土方の双眼は胡乱に揺らいでいた。

「流石は土方さん。呑むと男っ振りが一段と上がりますねぇ」

などと囃し立てる沖田は、少し背後へ振り返り。肩越しに、ニヤリ、それはもう凶悪に微笑んで。一人の隊士へ目配せ合図を出した。
それを受けた隊士は頷き。直ぐに、既に打ち合わせ済みの物を持ってくる。
そして沖田は手に受け取って、再び土方へ向き直った

「さぁ、土方さん。そんなしょっぱい漬物ばっかり食べてないで、団子もどうですか?」

「…ぁあ?」

土方は沖田の手にある物を見て、パチッと瞬きした。

「みたらし団子くらいイケるでしょ?」

沖田が持っているのは至って普通の串に刺さったみたらし団子。

「いらねぇよ。酒の肴になんで甘いもの食うンだよ」

「だからぁ、花より団子って言うんですよ?なので、本当に団子を用意してみました」

団子をチラつかせながら、沖田は尚も土方に酒を進めてゆき。土方はいつもの調子で軽口を叩きつつ、
桜の真下の片隅で御大尽さながら、踏み出すよう伸ばしていた片足を曲げて胡座に構え。沖田の酌に流されるがまま呑みだした。
そんな二人の様子を、馬鹿騒ぎに興じる隊士達が遠巻きから固唾を飲んで伺っていた。

目を惹くのも、無理は無いだろう。
男所帯の中で土方の容姿は常日頃、それはそれは目に毒なほど映えている。
艶々しい黒髪に際立つ木目の細やかな白肌。満開の桜花にも退けを取らない極上の美丈夫だ。
それが例え、男であろうと、阿修羅や鬼と恐れられるほど気性が荒く、口を開けば粛清だの切腹だの物騒な事しか言わない奴でも、
健全たる大人の男子には何の支障も無く。
その冷ややかな眼差しや、血も涙も無い事を言う薄い唇さえ、寧ろ色んな意味でゾクゾクと寒気を通り越し、ただ魅了されるだけだ。
その土方が、ここで酔い始め、乱れようと言うのか。隊士達の期待の視線が一心に注られている。もう変な顔が書かれた男の腹は勿論、(最初からさほど観てなかったけど)桜すら目に入らない。
だから先程、脚を立てて座っていた土方の着流しからチラついていた太股に視線を釘付けにされている者もいた。

しかし、誰もが皆、土方へお酌はおろか近付く事さえ出来ないのは、隣に居るのが沖田総司であるが故だ。

「清水のあの店から朝一で買って来たんですよ。一つくらい食べて下さい」

ズイッと差し出す沖田は、やはり見る者が見れば恐怖すら感じるだろうの微笑みを浮かべている。
ここで通常なら、何を企んでいる。と土方も身の危険を関知出来るが、酒のお陰で気を緩めていた。
舌打ち混じりでも、長年の弟分のお願いにあっさり応える事にして、
沖田の手元にある団子を、少々自棄気味に噛じりつく

そこで、団子を取って自ら食べようと思わず。うかっり食べさせてもらおうと思ってしまったのは、
やはり酒が入っている為の、無意識か。


あぁ〜〜〜〜!俺もヤりたい!!

遠巻きに居る男共が一斉に心中で雄叫び、身悶えた。
土方の、酒で血色が程好い赤色の頬や唇が非常に、如何にも煽情的だ。
宴も佳境のこの時、この場は酔っ払いの集団である。相当頭が沸いている状態と言っても過言では無い。
否応にもボルテージが急加速で上がった不埒な男共の特に下半身に、ダイレクトに刺激が直撃。
因みに、当の土方は酔眼に朦朧としているから辺りの異様な空気に気付かないのが救いか。
隊士達は、地面に突っ伏し掛けながらも何とか持ち堪え、土方から視線を反らせないでいると、

「あぁ、タレが付きましたよ。ここに」

ちょいっ、と口端を指先で沖田が突くと、土方は顔を顰めてから
親指の腹で拭い、そこを更にチロっと真っ赤な舌で舐め上げたのだ。

「もぅいいだろ。満足したか?」

言う通りに食っただろ。と沖田に投げられた続く台詞だったが、
その、如何にも不埒な事を匂わせるような、仕草を目の当たりにさせられ、酒で妙に掠れた声を聞いてしまった隊士達の耳へ届けられる前に、
皆は揃って前屈みのまま、ドサドサっと地面に総崩れした。



「おや、だらし無い。花より団子を見てるからですよ、皆さん」

桜の下一面を噴出した鼻血で赤く染め上げ動けなくなっている隊士達を、フフと一笑して至極楽し気に白々しく言う沖田は
当然こうなる事など見越していただろう。これが狙いだったらしい。

「そんな所に血を撒いたら、桜が紅くなっちゃうかもしれませんね」

「なに?」

「いいえ、なんでもないでーす」

土方は、やはり辺りを特に気にする事も無く、ちびりちびり手酌で呑み続けており。
沖田はいけしゃあしゃあと土方に引っ付いたまま花見に興じていて。
その背後では、前後不覚に陥りながらも近藤が隊士達の輪の中で人一倍、盛り上がっていた。





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琉生サマから頂いた6万突破リクエストの第一弾になります。お相手は沖田か斎藤でしたので、新選組を纏めて2つ書かせて頂きました。

此方の副長はかなり天然入ってます。そして副長が無意識にしているのでは無くて、敢えて沖田が意識させないように仕向けてます。
副長を泳がせながら楽しみつつ、地団駄を踏む周囲を見て尚愉しいドS沖田(笑)
花より団子よりも副長一途な新選組でした。

お付き合い有り難うございました!


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