土方受novel

□虹が僕らを呼んだようだ
1ページ/1ページ


ひょんなことで土方と伊庭と近藤で呑み交わすことになった。

飲み屋に入り、いつもより食と酒のピッチが早かった伊庭は、早々と潰れテーブルと仲良くしている。
土方もホロ酔いで、なんだかこの状況がくすぐったくて、幸せって案外こういうものか。などとらしくない事を考えていた。


「近藤さんに会ってなかったら?」

「そ。トシはなにやってただろうなー?」

「そんなの想像できるか」

想像したくもない問いかけに、土方はクッと煽った酒で喉を濡らす。

「でも、きっと生きる目的とか、なぁんにも持ってなかったと思うぜ」

「いやいや案外所帯持って幸せに暮らしてたり」

「俺が?」

土方は隣で眠る伊庭をチラリと、盗み見る。

「ありえねぇよ」

「そうか?トシなら引く手数多だろうさ」

「やめてくれ、近藤さんと会えねぇ人生なんて死んでもごめんだ」

「じゃあ、次もちゃんと見つけてやらねぇとなぁ」

「なんだよ次って。」

仕方ねぇなぁとカラカラ笑う近藤に、土方は不思議そうに顔をむけた。

「次だよ次。俺がまた見つけてやるから安心しろ」

「よくわからねぇけど……、近藤さんなら見つけてくれそうだな」

「おー、そしたらまた一緒に新選組やるぞ」

所詮は酔っ払いの言葉。
細かい事を気にしても仕方ない。
土方はただ言われた言葉の意味だけを、素直に受け止め、喜んだ。


「あぁ、必ずな」




それからすぐ、近藤も気持ちの良さそうな寝息をたてて眠った。
土方が笑って上着を近藤の肩に乗せた時、隣でうつ伏せの伊庭がモゾリと動いて手招きしてくる。
なんだかそれが可愛く思えて素直に側まで近づいた。
すると、不意に上がった顔に唇を掠め取られる。


「今度は近藤さんより先に、オイラがトシさんを見つけてやるさ」

唐突すぎて驚くタイミングもなかった土方は、伊庭の言葉を鼻で笑った。

「バーカ、お前ェにゃ無理だよ。見つけてもらえる気がしねぇ」

「はぁ?なんでェそりゃ、オイラの愛の大きさを馬鹿にしてンのかえ」

「いいんだよ、次もお前は俺が見つけてやるからよ」

「いやいや、その今回も俺が見つけました的な言い方やめてくんね?」

「だってそうだろうが」

「違いますぅー、オイラが先に見つけましたぁ」

「はぁ?!テメェ、どう考えても俺だろうが!」

「いいやオイラだからね。ちなみに前も俺だし。その前の前も俺が先に見つけてますから」

「残念だったな。俺はテメェの一番始めの一番初めてを見つけてやってるから」

「ふーん、でも回数的にはオイラのが上だし?」

「回数じゃねぇ、要は質だろ?」

それからしばらく互いに「俺が俺が。」と争いを繰り返し、
それが不毛だということに気づいた時に2人は、声を上げて笑った。







「あ!見つかってやってもいいが、近藤さんより先に見つけてくれるなよ」


(くそっ、コノヤロー)


伊庭は穏やかに眠る近藤のアホ面を、苦々しげに睨み付けた。







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ