土方受novel

□ラヴィー
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身体を重ねるのはどちらかと言えば好きだ。
そりゃあ気持ちはいいし、絶頂を迎えた瞬間に脳天に響くあの快感は、他の何も考えなくていい程癖になるものがある。
俺達が身体を重ねるようになったきっかけなんてほんの些細な事だった。
気持ちよさは勿論だけど、確かな感情がそこにはあった。
ただ、いくらヤリたい盛りの俺達だって、時と場所は弁るべきだってンだ。


「おやすみなさい、先生」

「おやすみ、宗次郎」

家事を一段落させ、睡魔に負けて大きな瞳を半分程閉じた宗次郎は、俺と勝っちゃんとで晩酌していた居間に少し顔を出すと部屋へ戻っていった。
賑やかで明るい、その存在がまるで太陽の様な宗次郎が寝ると途端に静かになった部屋で二人、
勝っちゃんは銚子を頭元に置いて膝掛けを枕に、最近夢中な三國志を読書中。
俺は畳に座り込み、本日の散薬の売り上げを計算しながら帳簿をパラパラと眺めている。
それから、宗次郎が部屋を出ていってから四半時は経っただろう


「トシ」

不意に聞こえた自分の名前を呼ぶ声に帳簿から視線を上げると、
徳利を乗せる膳を挟んで、ひょっこり顔を上げた勝っちゃんと目があった。

「ん?」

「そろそろいくか」

ニヤリと口の端を上げて笑う勝っちゃんに、身体の奥底が少し熱くなるのが分かった。

「あぁ、そうだな」

毎日という訳ではないが俺達は身体を重ねている。
勝っちゃんに強引に押し切られるように俺が受け身になったのだが、
さすがに何回も何回も続けては出来ないし、この家には可愛い弟分も勝っちゃんの義理の親も暮らしているのだ。身体を重ねる際には細心の注意を払っている。
それに勝っちゃんの部屋は、宗次郎が居る部屋と襖を一枚隔てた隣。
勝っちゃんが布団を敷いている間に、そっと宗次郎の部屋を覗いてみるとぐっすり眠っているようだ。
静かで規則正しい寝息が聞こえたのを確認して、俺は再び静かに襖を閉めた。
パタンと鳴った直後、勝っちゃんが待ちきれなかったとばかりに、俺の身体を布団の上に押し倒した。

「うわっ、待てって!んながっつくな…っ」

もちろん小声だが勝っちゃんにハッキリ聞こえるように言っている。
しかしあっさり無視されて、ちゅっちゅと音を立てながら首筋に唇を落としてくる。

「んっ…勝っちゃ…っ!」

「無理、早くトシの声聞きてぇ」

息遣いは荒く、早々と着流しの下の素肌に熱い手が入り込んでくる。
するすると素肌を撫で上げ、胸の突起を探り当てた。

「っ…バカ、…落ち着けって、この」

「はいはい、静かにな」

意地悪くニヤリと笑う勝っちゃん。この二重人格め。
大先生や宗次郎や他人が今のこの人の顔を見たら同一人物かと思うだろうか。外面が良いって言うんだろうなこういうの。
まあそれを見て自分は毎回喜んでるのだけれど。
そして、勝っちゃんに両手でそれぞれ二つの突起を摘んだり、親指でぐりぐりと刺激を与えられると自分の身体は面白いくらいに跳ねる。
大きな声を出すと宗次郎が起きてしまうかもしれない。その危機感もコイツは楽しんでいる節がある。
必死で声を抑えようとする俺を尻目に、勝っちゃんはうっかり殴り飛ばしたくなるほど物凄く楽しそうだ。

いつの間にか勝っちゃんは、俺の帯に引っ掛かっているだけの着物を強引に脱がしにかかった。
流石にそれはマズイと俺は慌てて制止する。

「バカ!脱がすなって!」

ぺしっと頭を叩けば、相手は一度顔を上げ、如何にも面白くないように口を尖らせた。

「なんでいつも服脱がねぇんだよ」

「宗次郎が起きたら何て言うんだよ!絶対に脱がすなってンだろうが」

「…」

襖に鍵がついているわけじゃないし。宗次郎が起きない保証は無い。もしもの為に、俺はいつも着物を着たまましているわけだ。
一緒に寝ているくらいなら、適当に言い訳が出来ると思って。
なのに勝っちゃんは、俺のそんな些細な気遣いを無下にする。

「宗次郎ももう十過ぎだぞ?いくらなんでも、粋事の意味くらい分かるだろ」

「そーいう問題じゃねぇよ!宗次郎にバレたら大変だっつってんだバカ!それに、宗次郎に粋事なんざまだ早ぇだろうが」

「…トシ、お前なぁ…」

呆れた様子で俺を見下ろす勝っちゃん。

「少し宗次郎に過保護すぎやしねぇか?」

「…はぁ?」

思わぬ事を言われて、それがあながち間違いじゃないと自覚もしているからか、
俺はうっかり腹が立った。

「アンタにだきャあ言われたくねぇ」

「…ぁあ?」

過保護…というかブラコンなのはお前の方だろうと、俺はずっと今まで堪えていた感情をいよいよ吐き出してしまった。うっかり。

「この前だって、鰯の頭、アンタ変わりに食ってやってただろ!?一番栄養の有る所を食わせてやらねぇでどうすんだ!贅沢させるな!」

「あれは宗次郎が気持ち悪くて嫌だっつーからつい…!なんだよ、お前ぇだって外で菓子ばっか食わせやがって!」

「それは、儲かった時に限ってアイツがたかるから…」

もう甘い時間どころじゃない。一度言い出したら切りが無く。
知らず知らず大声で口論していると、スッと音を立てて部屋の襖が開かれた。


「「!!!」」

ぎょっと目を見開きながら訪問者に視線をやると、
いかにも眠そうに目を擦りながらぼんやりと立つ宗次郎が、当然そこにいた。


「そ、宗次…?」

「起きちまったのか…?」

「ん〜…なに喧嘩してんですか?うるさい…」

薄闇に包まれていた部屋に宗次郎が持ってた明かりが灯り、布団の上で重なる俺達の姿が浮かび上がる。
俺は着物を死守していたが、しかし、よくよく考えれば勝っちゃんはどうだ。
着流しは腰元で帯に引っ掛かっかっているが、上半身は露になっている。
ああホントに俺はうっかりしていたようだ。これじゃ俺が着物を着ていても意味がねぇ。
まるっきり半裸の男に押し倒されている男の図じゃねぇか。
じっとそんな構図の俺達に目を凝らす宗次郎に、俺も勝っちゃんも滝の如く冷や汗が流れる。

「…二人共、なにしてんですか?」

「え…」


「ああ…プロレスごっこ…?」


勝っちゃんの口からポロリと出た言葉はあまりにベタな言い訳だった。いやいや、プロレスってオイ。
ソコはせめて相撲だろう。相撲にしとけよ。いや夜中に相撲を取ってるのも不自然な話だが。
もうダメだ。これダメだろ。俺は愕然として、さすがの宗次郎もこの状態では俺らの関係に気付くか、気付かなくても不信感を抱くだろうと諦めて。
どーすんだコレと溜め息をついた矢先、



「私もやる」

「「…え?」」

「なんで二人だけ?私も、そのプロレス?やりたい!」

ええぇ!!?なんだコレ。なんなんだコイツ。
眠気などすっかり醒めたかのような笑顔で布団に飛び付いて来た宗次郎。
俺と勝っちゃんの間に割って入って来て、きゃいきゃいと手足を動かし無邪気に騒ぐのを暫く唖然と見つめていたが、

それから勝っちゃんと目が合って、どちらかともなく笑いが零れていた。


「宗次郎、今日はもう遅いからまた明日な?」

宗次郎の子供特有な柔い黒髪を撫でてやる勝っちゃん

「え〜!」

「明日思う存分遊んでやるから、な?」

「あぁ、うん。そうすっか宗次。だからもう寝ろ」

取り敢えず俺は勝っちゃんに倣って、拗ねる宗次郎を宥めておく。
すると宗次郎は、はい。と納得して幼さ満天な笑顔を浮かべ。それを勝っちゃんは、いい子だ、と褒める。
頭を撫でられ嬉しそうな照れ笑いを溢す宗次郎にデレデレしている勝っちゃんの姿を見れば、やっぱり勝っちゃんのほうが過保護だと確信した。
ま、俺もこの人までとはいかないが宗次郎には甘い。
宗次郎が笑ってりゃ、それで何もかもいいような気がするわけで。
ヤりたい盛りな欲も一瞬で吹き飛んでしまうわけだから。


「じゃあ、今日はここで三人で寝るか」

勝っちゃんの提案に宗次郎は心底嬉しそうに笑い。俺と勝っちゃんの間に小さな体を押し込めて来た。
男三人で眠るのに布団一枚はかなり狭いが、たまにはいいか。
体勢を整えつつ宗次郎の肩まで布団を綺麗に引き上げると、すぐさまくうくうと寝息が聞こえ始める。
さっきのは寝惚けてただけか?寝付き良すぎるだろ。
近頃は口達者で生意気だと思う所も増えてきたが、寝ている時はまだまだ赤子のようで可愛げもある。
その寝顔を眺めていると、ふと、視線を感じて顔を上げた。
勝っちゃんが笑みを浮かべながら俺を見ていた。
くすりと笑うと、宗次郎の頭上で触れ合うだけの口づけをした。



「おやすみ、トシ」

「おやすみ、勝っちゃん」









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この2人にはずっと夫婦やってて欲しいです(笑)





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