土方受novel
□逆さまのてるてる坊主
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トシさんの傘をバキボキにへし折った。
珍しく家に来たトシさんが、それじゃなと今度いつ来るかわからない将来にオイラとの幸せを任せちまって、帰っていく後ろ姿を見送るのが、どうも虚しく遣る瀬ないから。
折った傘は蹴って縁の下に隠した。これで大丈夫。
「俺の傘は…?」
帰ると言って草履を履いたトシさんは、傘が見当たらないのに疑問を持って俺に言う。
知らねぇと返す俺に対して玄関の土間にはパラパラと木の破片が散らばっている。基本的に鋭い彼は破片にすぐ気付いて、
しかも、また易々と縁の下に隠れていた傘を見つけ出しやがった。
「…嫌がらせか?」
トシさんが口の端をあげ、それはもう綺麗に笑う。が目は笑ってない。俺も乾いた笑顔を向ける。
「まさか。愛さね」
「重い。」
「そりゃそうさ。ま、一緒に帰りましょってことだよ。ホラ、行こ」
玄関でさよならするのは寂しいじゃねぇか。だから、今日は試衛館まで送るというオイラの優しさ。
俺は鼻緒を引っ掻け自分の傘を開いた。横でトシさんはしかめっ面をする。
相合い傘ってやつを一回はしてみてぇじゃんと引き戸を開くと、
雨は物凄い音を立て降りしきっていた。そりゃもう風はゴウゴウと唸り、台風のような雨の勢いだ。思わず引きつる笑顔。
俺は振り向いてトシさんに傘を渡した。
「じゃ、傘貸してやるから頑張って。気を付けてな」
「待てコラアア!!!」
「無理無理無理!出たくねー!コレは無いって!!」
「相合い傘したいって言ったの誰だバカヤローっ!」
「じゃあ泊まっていきなよトシさん。な?そうしよ。オイラの布団で今夜は」
「うるせぇ!帰るぞオラ」
トシさんは逃げる俺の腕を引っ張り外に飛び出した。
うわわわわ、本当に傘さしてんのかと思うほど体に雨がバシバシ当たる。痛い。冷たい。ヤベェよコレ。
確かに一緒に帰ったりしたかったよ。どうせなら恋人っぽくとか思ったが、本当浅はかでした。
もっと日を選べば良かったと後悔しながらトシさんの歩く速さに合わせて歩く。
傘に入りきらない部分がみるみる濡れて冷たくなっていく。寒い。
「ちょいとトシさん肩濡れてる。ちゃんとしてよ」
「てめえ殺すぞ」
「あーあ失敗したなあ…」
なんて相合い傘には過酷な天候なんだ。これじゃ色気もクソもねぇ。
ビショビショに濡れちまって、向こうに着いたら近藤さんにきっとバカかって言われんだろうなあ。
「寒い」
そんな口実で傘の中で肩を寄せてみた。まぁトシさんも濡れてるからどうにもならないわけだが。
ただこんなに窮屈な中でも、まだ試衛館に着かなければいいのにと俺は思った。
終
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物凄い雨が強く降ってたから浮かんできました。
伊庭はどうせ試衛館に着いたら雨宿りでお泊まりコースだと思います(笑)