土方受novel

□いまひととき
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人の気配を感じて、重たい目蓋をゆっくりと押し上げた。
ぼんやりとした頭でも開けた視界からの状況をなんとか把握しようと辺りを見回してみる。


「おはよ」


瞬間、掛けられた思いもよらぬ声での朝の挨拶に自分でも眉間に皺が生まれたのが分かった。
見れば襖を背にそいつが、俺の布団の横に寝転んで、にこにこと笑顔で見下ろしている。

なんで朝っぱらから?
だいたいなんでここにいる?ここ屯所だぞコラ。
誰も言いに来ないって不法侵入かテメェ。っつか誰も気付かねぇって。

ぐるぐると寝起きの頭が働くが、それらが口から出ていくことはない。
正直、寝たばかりに等しい時間で眠いんだ、俺は。


「どーせ夜更かししてたんだろ?もう少し寝てなよ。そんで、次に起きたら遊びに行こ?」


それらすべてを悟ったように、俺の髪を撫でながら言う。
あぁもう、ムカつくぜ、ちきしょう。なんだって昔からコイツは。
けれどいつもなら心地好い掌の温度が違う気がして、閉じかけた目蓋をもう一度押し上げた。
徐ろに布団から出した手が触れた先は、そいつの肩。


「え? な、何?」

「…………つめたい…」

「へっ?…ッ…えっ…?」


間抜けな声が多々降る中、温かな布団を持ち上げ冷えたその体にかけてやる。
必然、招き入れた形になった小さな範囲では、ぴったりと寄り添わなくては今度は俺が寒い。
夏だが、それでも朝方は冷える。

仕方ない。
温度が下がって迷惑極まりないが我慢してやるさ。

ひっついた胸元から聞こえる、ばくばくと激しい心音に笑いを堪えながら、背に回った腕に安心して俺は、今度こそ目蓋を閉じた。









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夏でも朝方は寒い時もあるってだけの話です。そして副長は寝惚けてるだけ(笑)

この後、起こしに来た沖田が驚いた挙げ句に伊庭の反対側に入っていけばいいと思います。そして川の字の完成。



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