黒×榎novel

□愛逢月コロラトゥーラ
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「あ゙ー…暑いのぉ」

なんて間延びした科白が、清々しいほど真っ青な空に浮かぶ雲の如く部屋の天井にぽっかり漂った。
その声の主はぐったり深くソファーに座り、長い脚を前に伸ばし。天井に向けた科白の次に葉巻の紫煙を吹き掛ける。

そしてソレを聞いたのが、ブチ切れ3秒前の榎本。
麦茶を入れたコップをそう言う黒田が居るテーブルの前に差し出した時だった。
呆れと言うか惜し気もなく満面に不愉快さを表して、思わず言葉を出せずムスーっとして黒田を見遣れば、
その如何にも棘のある視線に気付いただろうに、黒田はヘラッと笑ってみせる

「こげな北も、夏はさすが暑かごあんど」

「…暑さで頭沸いたんですか、閣下」

榎本は不愉快と言うよりも半ば哀れんだ目をした。が
黒田はその酷く失礼な物言いや蔑むような視線よりも何より

「閣下はやめてたもんせ」

と眉間に皺を寄せ拗ねたように唇を尖らせた。
だから榎本は内心で、あぁやっぱコイツ馬鹿なんだ。など更に容赦のない毒を吐き出した。

今の榎本は、夏真っ盛りの北海道で、北の外れと言えども山に囲まれた平坦な街だから熱が籠っているようで、それなりに同じく暑さを感じていて。多少は機嫌が良くない。
だがそれ以上に、あまりにもこの空気が読めないというか間抜けと言うしか無い問いをしたこの男に、腹が立っていてしょうがないのだ。

「取り合えず、その背広の上着でも脱げば、少しは涼しくなるんじゃないかと思われます。閣下」

「まぁた閣下いう・・・・おお、忘れとった…」


神様…居るならどうかこの男を今すぐ殴らせてください。一発、いや二発くらい

幾ら三十路過ぎでもボケるには未だ早すぎだろうからコレこそ天然なんだろう。
そして、本日は大事な用事が無い為に庁舎内でも軽装でクールビズ先駆けなネクタイ無しでチョッキすら着けずカッターシャツの一枚で袖を関節で捲る榎本なのに、先程から自棄に暑苦しく感じ苛立ったのはきっと、
もう一方の黒田が、ネクタイを外しシャツの釦も2つ空けながら、如何にも暑そうな黒い背広を着崩さず着ているのを見せられていたからだと思った。

ここより東の生まれな自分が薄着で事足りているし。
もっと南の生まれなこの男は暑さにはかなりの免疫が備わっている筈だ。
北国の夏など所詮は初夏の陽射しと変わらないようなモノだろうから根をあげる事がそもそも間違いである

呆れてモノも言えないとは正にさっきのような現象の事を言うのだろう。と榎本が感嘆している間に、
黒田は上着を脱ぎソファーの背凭れに掛け。
やはり、それだけで充分にスッキリした様子で葉巻を灰皿に押し当て麦茶を旨そうに一気に飲み干した。

「暑さは退いた?」

「あい、おかわりくいや」

「飲み過ぎたら今度は腹が冷えるよ」

と言いながらも榎本は黒田の向かい側から脇に置いていたポットを持ってテーブルへ身を乗り出し。
黒田が差し出すコップに注ぎ足してやると、よほど暑さで喉が渇いてたのかそれをまた黒田は直ぐ空にした

「さっきは、ないごて榎本さぁ涼し気な顔しとんのか気になっちょったんじゃ」

「そりゃ誰かと違って上着脱いでるからね。少しは汗かいてるけどさ…」

早く風呂に入りたい。と呟いて、シャツの片側の襟を掴んでパタパタ扇ぎ風を中に送る。
そこで大きく開く首筋辺りに、黒田の視線が向かっている事など露知らず。
榎本は、徐に立ち上がり。背凭れにある上着を衣紋掛けに掛けてやろうと黒田の横へ近付くと、
そこで黒田の手に榎本の腕が捕まり。わ、と思った時にはその腕が引っ張られ、
体勢を崩した榎本は黒田の肩に片手を付いたが、座る黒田の上に覆い被ってしまった

「なにすンの急に!」

「脱げば今度は冷えてきたんじゃ、暖めてくいや」

「なんで。また着ればいいじゃん。それか麦茶飲め。もう腹下すまで飲んでいいから」

「いんや、おいは榎本さぁがええ」

黒田は引き寄せた榎本の耳元で囁き、その後、耳の後ろを舐めそこから項へと舌を移動させ、
僅に汗ばむ首筋をきつく吸いあげると紅い朱が一箇所、浮かび上がった

「ちょ、バカ!嫌だ!」

「あぁ、ちと辛い」

「だから汗かいてんだってば!舐め…っ!!」

それだけの行為や言葉に息を詰まらせ頬を真っ赤にさせつつ、掴む黒田の肩を引き剥がそうとしながら爪を立て声を押し殺す榎本。
その仕種が黒田を調子に乗せ、圧倒的な力任せに榎本をソファーの上に横倒した

「ど、退けて!まだ昼間っ!!仕事中っ!」

「今は休憩中じゃっどん。ほんに少し、直ぐ終わらせもす」

「何が少し!?ってか直ぐ終わるってなに!?ふざ…け、な…つぅ…」

黒田の頭が肩口に埋まり、舌先でそこの曲線を縁取りながら大きく分厚い掌が開く釦の隙間から呆気なく入り込み素肌に触れてくる。
必死に手で黒田の胸板を押し上げ。脚で鳩尾を蹴り上げたり広い背中に踵落としを決めたりバタつかせるが、やはり体格も力も一回りは違う男だ。榎本が簡単に敵うはずもなくて、
それでも諦めてたまるかと目をぎゅっと瞑り、せめて声だけでもと下唇を噛み締め流れに抗おうとした。

「んっ…っ……んぅ…」

「声、出してよか」

「…い、や…だっ……」

ついさっき冷えたコップを握っていた所為で軽く濡れる黒田の右手がシャツの中で腹から胸元を撫でる。
その感触にゾワッと榎本の全身の肌が粟立ち。
それと一緒に膨れ上がる胸の突起を、そこに辿り着いた指が軽く摘んだり爪で引っかく。
そして左手はいつの間にか洋帯が緩められ開いているだけのズボンの中へ進入し、下着越しから榎本自身を触った。

「ひっ!?っく…り、介」

勝手にビクビク飛び跳ねてしまう身体なのに自分じゃ力を入れられず。
腰元を抱える腕に縋ろうとしたが指先はシャツの表面で滑り落ちる。それを黒田は捉え、首へ回すよう促された。
素直に回した両腕で抱き込んだ黒田の固くチクチクする短い黒髪も榎本の全身と同様に汗で少し湿っていた

「榎本さぁ、汗だく」

「る、さ…はぁ、っ、うぁっ!!」

話しながら黒田の手が榎本の下着の中へと入り直接それを掴み。ゆるりと上下に摩れば榎本は声を上げた。
反動に首を弓形に反らす榎本から黒田の顔は見えずとも、その声色が楽し気で。
しかも、シャツが透けて見える。と言っていて喜んでいるのも聞こえた。
噴き出してきた汗で肌に貼り付くシャツは気持ちいいものでは無く、いっそ脱がしてくれるかと思ったが、まったく迷惑な話だ。


じわりと暑い気温の中で、徐々に火照ってくる身体。それと、真上からも熱気を含む随分と高い体温が伝わってきて。
本当に暑さで頭が沸くのではないか。いや、既に沸き始めてるのかもしれない。と榎本は鈍くなってきた思考で心配してみた。

このまま流されるのは物凄く不本意でも身体が言う事を訊いてくれないからどうしようもない。と言えど、
これから否応無くぐっしょり汗をかかされ、オマケにその他諸々もいっぱい流し尽くす(と言うか、搾り取られると言った方が正解かもしれない)だろうから、それからまた大好きな熱い風呂に入ってサッパリして、これまた大好きな麦酒を黒田と呑むのも悪くはなさそうだ。と

こんな展開に甘んじる事を、榎本は暑い愛逢月の所為にした。






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愛逢月…7月の別称





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